期待のハードルを遥かに超えた出来の映画に出会えた時は、とても良い気分になる。
という事で
『バッド・ジーニアス』
予告編
流石に「ザ・カンニング」ほど能天気ではないにせよ、スタイリッシュでライトな学園ムービー的気軽さを想像していたらとんでもない快作だった。
主人公の天才女子高生リンのキャラクターが魅力的で、冒頭から引き込まれる。それを演じるチュティモン・ジョンジャルーンスックジン(覚えられない!)のスラリとした肢体とクールな眼差しもまたその魅力。
おそらく意図したものだろうが、いわゆる観光映画的なタイはこの作品では描かれない。トムヤムクンもキックボクシングも出てこない。どちらかと言えば普遍的な街で起こる少年少女を取り巻く(ある種、わたし達の10代とも代替可能な)アレコレを凝った映像と音楽で描いている。そしてそれが鼻につくことなく、良いバランスを保っていた。それも好印象。
カンニングの手口もなかなかオリジナリティに富んでいるし、成功するか否かのスリルとサスペンスも巧みで手堅い演出で終始ドキドキとさせられる。
しかし、最初に言ったようにこの作品は、軽快で明るいだけの青春映画(コメディ要素もあるけれど)ではなくて、どちらかというと80年代ATG映画のような、腹にズシンとくるパワーがある。
リア充でパリピな世界の住人とリンやバンクのように〝そこではない住人〟の格差やそこに存在するルサンチマンのようなものが、程よい形で提示され、観客の(少なくともわたしの)心を揺さぶる。
主人公リンはもちろんの事、苦学生バンク君、そしてリンの父親、とあらゆるキャラクターに感情移入してしまい終盤ほほとんど心の涙腺決壊で号泣状態だった。
特にラスト。リンの選択もバンクの選択も、どちらにも心が抉られる。嗚呼…バンク!バンクよ…!
タイの観光的風景は描かれないが、シドニーのオペラハウスはささやかな形で登場する。そしてそのシーンを巡る運命に、またわたしは涙を流すのだった。
おまけ パンフレットのデザインがノートブックでなかなか洒落が効いてる。