そうか、これシネセゾンがあったところなのね。と会場に着いて思い出す。
やってきましたシブゲキ。
実験落語neo〜シブヤ炎上ミックス
わたしもいい年だが、落語・講談の観賞は二度目。もちろん子供の頃からテレビ塔を通じて演芸には接していたし、iPhoneに志ん朝コレクションがいくつか入れる程度には落語の楽しさを知っているつもりだ。当然寄席にも興味はあったものの、何だかんだここまで観に行く、という事はなかった。
そんなわたしの腰を上げさせたのが、神田松之丞。彼のオーラに引き摺られるように渋谷へやってきた。
開演前の場内には、いわゆる寄席のイメージとはかけ離れたBGMが流れている。イギー・ポップやハイスタもあったかな?そしていよいよ開演。今回は「ハメモノ」がテーマになっているとのこと。三味線や太鼓といったBGMやSEが入る落語をハメモノというらしい。
立川吉笑『ハメモノ落語neo』
今回がネタおろしとの事。腹話術という設定を活かして、その声が志ん朝、志ん生、圓生(?かな)などになっているという試み。少しコントに近いSEの使い方は変化球だが楽しめる。関西弁にも違和感なかった。というか元々西日本出身な気がするこの人。と思って調べたら京都出身でした。
これが浪曲のオーソドックスなスタイルなのかどうかはわからない。百人一首を現代語訳してそのギャップを笑いに繋げるスタイル。奈々福さんの迫力と愛嬌を感じる発声が心地よく。そして三味線の美舟さん、可愛い。
柳家権太楼『幽霊の辻』
この日の中では最もオーソドックスなスタイルの噺家さん。大御所らしいゆったりとした語り口。SEの使いどころも直球で、安心して身体を委ねる感じ。最後は「こっからが本当は面白ェんだけど、時間切れ」で、退場。
神田松之丞『しゅうまい』
新作でカジュアルな語り口とはいうものの、メリハリのある声の強弱と色気のある発声は素晴らしい。しゅうまいという名前ワンアイディアで飽きさせず楽しませてくれるのは、やはり腕か。終始、笑わせていただいた。ユッサユッサ、ユッサユッサ…。そして聴き終わった時には、やはり古典をじっくり聴きたいなぁ、という気持ちになる。
そしてトリはもちろん
これだけは言える。とにかく凄かった。
わたしの中で「三遊亭円丈」と言えば、花王名人劇場などで新作落語をやってドッカンドッカン受けているイメージだ。この夜、目の前にある光景はそれとは全く違うものだった。
齢を重ね心なしか声のハリもないように感じられる。台本を読みながらの高座には正直戸惑いを隠せず、(あれ?読んでるだけでは?)という思いがあった事も告白する。
しかし、時間が経つにつれて「芸の深み」のようなものが感じられるようになってきた。それがどういうもので、何故そう感じたのかについては自分でもよくわからない。それを理解するにはわたしには経験が足りないのかもしれない。ともかく、ちょっとこれは凄いものを観ているぞ、というのは反射的に判った。これは紛れもなく芸だ。枯れた、とか老練な、という表現も当てはまらない気がする。今振り返ってみればあれは「台本を読みながら時々詰まったり、ページを飛ばしたりするという芸」なのではないか?という気すらしてくる。
手ぬぐいを使って人の首を絞める仕草を「これが圓生直伝の首の締め方だッ…!」とやるところも気迫がビンビン伝わったし、終盤ストーリーがジャンプしていたので間違ってるかもしれないが父親が息子に「俺たちゃクソみてぇな家族だったが、ここから見えるスカイツリーだけは自慢できらぁ!」というセリフがあって、いや本当にそんな場面あったのか記憶が朧気で自信なくなってきたけど、とにかくゾクッと震えたことだけは覚えている。いや素晴らしい時間でした。
という事で、初めての実験落語、これはなかなかの体験だった。これからちょっと寄席に通っていきたいね。