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じょうずにできるかな?【映画】『斬、』雑感。

映画作家としてもまた俳優としても塚本晋也が映画界のキーパーソンであることは間違いなく。

という事で今年の映画初めはこちらに。

『斬、』

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予告編→https://youtu.be/ZGFIxHXfZ4A

濃密な80分だった。気軽に「面白かった」「よかった」等と言うとそれこそ返り討ちに合いそうな、そんなお腹にズシンとくる作品。

幕末と思われる時代背景は、つまりは侍が命のやり取りを長い間していなかったころだと思われ、主人公の若き浪人都筑(池松壮亮)もバーチャルな剣術の腕は持っていても実際に人を斬った事がないと推察される。時代の流れで浪人をしているが、そもそも〝侍〟として斬り合いの最前線にいた訳ではない。

だから都築は荒くれ者達(中村達也他)への復讐をしようとする澤村(塚本晋也)に「もうやめましょうよ」と言う。暴力の連鎖を避けて被害を最小限に抑えようとするスタンスは現代の価値観に近い。そんな都築に対して村の娘ゆう(蒼井優)は時に激しい言葉をぶつける。

「人を殺すために(この村を)出て行くんでしょう!その刀、何のためにあるの!」

そう。都築の刀は役立たずだ。あれほど訓練の場で達人ぶりを見せていたその剣術は実践では全くその実力を発揮しない。彼は人を斬れない

 

この作品で描かれる殺陣はスマートではない。とても泥臭い。時には不恰好に刀を振り回したり蹴飛ばしたり殴ったりする。それだけにその暴力はリアリティを持ってズシンと迫ってくる。スタイリッシュでないだけに生々しい。その生々しい暴力を目の当たりにしてわたし達は何を思うか。

「生と性と死がね…」とか「この暴力性がつまりは戦いのアンチテーゼで」などと判ったような顔でいう事は危険だ。少なくともわたしには即座に消化する事は出来なかった。ただ目の前で生身の身体が斬られていく様を浴びるしかない。

池松壮亮塚本晋也も良かったが、蒼井優が素晴らしかった。ユーモアがあり愛嬌のあるキャラクターでありながら時折ハッとさせるような匂い立つ色気を感じさせる。と同時に倦怠も。壁越しの指と対峙した時のあのシーン!

音楽/音響もまたこの映画の重要なパーツだった。ビートと低音の効いた音楽は素晴らしく、時折「あれ?これ武満徹?」と思うような旋律もあったような。或いは刀が空気を切るときの音や人を殴るときの鈍い音、などなど。館内に響く音もまたこの作品の出来を左右する要素のひとつ。

さて。

森の中で響いたゆうの叫び声は果たして何に対してなのか?その答えはわたしにはまだない。