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不変の口説きテクニック。【映画】『天才作家の妻 40年目の真実』雑感。

人の感情ー愛情であれ怒りであれ共感であれ憧れであれ嫉妬であれーというものは直線的ではないし、一面的でもない。

あらゆる方向へ行きつ戻りつしそのゴールがどこにあるのかは他人には判らない。それは自分自身でも。

という事で観てきました。

『天才作家の妻 40年目の真実』

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予告編→ https://youtu.be/w-GfRcTvurc

とにかくグレン・クローズが素晴らしい。彼女が名優である事は疑いようのない事実ではあるが、個人的には少し苦手な印象があった。何がどうという訳でもないがその存在感に気圧されていたのかもしれない。しかし、今回の彼女は流石というほかない。オスカーあげなきゃ嘘だろ?

彼女の(というよりも他のキャストも含めてであるが)表情やちょっとした仕草で描かれるキャラクターは実に深い。深いというのは同時にその内面、その行きたく先が見えないという事でもあり、〝真実の姿〟を掴ませないという事でもある。まさに天才作家の妻としての姿を演じ続けるジョーンのように。

ジョーンは多くを語らない。静かにそして慎ましく夫を支える妻として存在している。おそらくこの40年間な夫婦生活ーそして作家生活ーの中で2人の関係性は熟成されてきたのだろう。ジョーンはベテラン俳優のような落ち着きでその役割を演じてきていた。

ジョーンの表情からその感情を読み取る事は容易ではない。これは怒りなのか慈悲なのか、そこに嫉妬があるのか憧れがあるのか…。目線の動きや表情の僅かな変化からそれを探ろうとする試みは次第にミステリー的なスリルすら我々に与える。

「男社会の中で苛まれ輝く事を許されない女性の苦悩」でも「才能のある者への憧憬と嫉妬」でも何でも良いが、そういう一面的な決めつけでジョーン(を巡る人間関係ー夫婦、親子関係)を理解する事に意味はない。あらゆる感情は複雑に絡み合い、その全てが真実だからだ。

原題〝the wife〟というシンプルな単語に込められた様々な思いを我々がどう呑み込んで咀嚼して理解していくかは、まさに人それぞれだろう。あの時のあの表情は…あの仕草は…。そうやって色々と思いを巡らせるのもまたこの作品の楽しみ方のひとつではある。

ラスト付近、唯一と言って良いほど感情を爆発させそれを言葉にして夫ジョセフにぶつけるジョーン。しかし、それさえも無防備に信じてはいけない事はこの作品を観た人なら判るだろう。「君の本心が見えない」というジョセフのセリフそのままに。

白紙のノートを愛おしく撫でるジョーンに去来する思いは何か?それを考えた時、永遠の愛を感じるかそれともゾッとするような表現者の業を感じるかはあなた次第かもしれません。

 

感想メモ。

  • 若い時のジョーンを演じてる女優さんが、グレン・クローズに良く似てて、ふとした仕草や後ろ姿の佇まいがまさに生き写しのようだなあ、と思ってたら実の娘さんだった。アニー・スターク。
  • 息子デヴィッドを演じたのはマックス・アイアンズ。そう、ジェレミーさんの息子。『運命の逆転』
  • クリスチャン・スレーター久しぶりに観たぞ!ゲスさと気品さギリギリのキャラクターは彼の存在感あってこそかも。
  • ジョナサン・プライスも良かったよね。ジョセフ、40年間口説きのテクニック変わってないのは笑った。今の若い子に通用しないあたりの哀しさ…。