妄想徒然ダイアリー

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貧乏ゆすりの数だけ爆弾は落ちる。【映画】『バイス』雑感。

時に映画は奇跡的な瞬間を捉えるもので。

という事で観てきました。

バイス

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予告編→ https://youtu.be/JWnR16WnmFk

いや、開始から締めくくりまで最高でしたね。予想以上にコメディ色も強く、最後の最後まで皮肉が効いている。

その一方で〝悪名高き人物〟としてチェイニーを声高に批判する事に終始する訳ではなく、コメディ的手法を巧みに使いながらも左右の思想のバランスを取っていたような印象だ。

確かに功罪で言えば〝罪〟の部分にフォーカスは当てられているかもしれない。しかし同時にチェイニーという人物の複雑さがこの物語を単なる政治的な批判に留まらずに、ある種の人間ドラマへと昇華させている。例えば次女メアリーのセクシャリティを巡る彼のスタンスとそれがもたらすドラマなどは一層そのキャラクターを複雑なものにしている。

実在する人物である事と実際に起きてしまった出来事を脇に置けば、チェイニーという人物の立身出世のカタルシスとある高みに到達した人間のみが見る景色には否定できない〝何か〟があるように感じられる。

コメディとしてはかなりブラックで、それがまた凄まじいスパイスになっている。かなり好みのスタンス。個人的なツボは〝第1部完〟のナレーション、ブッシュ・ジュニアとの会談シーンでの釣りのシーンとのカットバック、そしてラストのあの一言!この三箇所は肩が揺れるくらい笑ったなぁ。あとチェイニー、ブッシュ親子、コリン・パウエルの再現度も素晴らしかったけどライス国務長官の再現レベル!

クリスチャン・ベイルについてはその〝カメレオン〟振りばかりが強調されているが、瞳の輝きから変化させているようにすら感じる。立ち振る舞いから沸き立つオーラがやはり段違い。

思わず目を見張ったのは序盤の若い頃のチェイニーが妻であるリン(エイミー・アダムス)に責め立てられている場面で彼の顔にハエが止まったシーンだ。神妙にしている表情をテトテトとは歩くハエ。そのハエは切り返しのリンのカットにも映っていて彼女の袖に止まっていてやがて飛び立っていった。これが偶然に起こったことなのか意図的な演出なのかは分からないが、これが偶然であれば奇跡的な瞬間だし、意図的な演出だとすればそれはそれで細かいやり方でその時の状況を物語っている。いずれにしても思わず声を上げそうになる瞬間だった。

イラク空爆といったポリティカルなイシューについては基本、煽情的になり過ぎずスマートな語り口を心がけているようだ。それでも対イラク開戦を宣言するブッシュ大統領の貧乏ゆすりと空爆に怯えるイラク市民の震えの対比等、こちらの心にアタックする表現が随所にありインパクトを与える。この辺りは巧みだ。

戦死者数や市民の被害者数そしてテロ行為での死者数といった数字の羅列或いは一元的執政府論が今でも有効だという事実の提示は「これ、今も結構ヤバイのよ?」というシグナルではある。

ではあるが、一方で終盤のチェイニーの独白シーンを単なる開き直りの悪態という事には気が引けるし、そこに魂の叫びのようなものを感じてしまうのだ。

それがまた困るところで。

結局のところリベラルも保守もどっちもクソだし醜く争ってるだけなのか?じゃあどうすれば良いのか?

何も考えずにワイスピでも観てるしかないんだね。