清水義範の作品にタイムトラベルがビジネスになっている世界を題材にしたもの(タイトルは失念)があって、その中に未来からバブル時代の日本へツアーする場面がある。観光名所として案内されるのが六本木のディスコ「トゥーリア」の〝あの日〟で、主人公たちは目の前で起きる出来事を止める事も出来ず誰も救うことができない、そんなジレンマを描いていたという記憶。
という事で観てきました。
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』
映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』予告 8月30日(金)公開 - YouTube
基本的にどんな作品も事前情報なしに鑑賞可能であるべきだと思っているが、この作品に関してはシャロン・テートについての予備知識があった方が良い。というかそれがあるとないとでは終盤のカタルシスは全く違うものになる。基本的な情報だけで良い(事実わたしはwiki以上の情報を持っていない)ので、彼女に何が起こったのかだけは知った上で映画館に行かれる方を強くお勧めする。
わたしが持つ彼女のイメージは、やはりチャールズ・マンソンによる惨殺事件の事であって、それは言ってみればロマン・ポランスキーを語るための修辞のような位置づけだったと思う。
しかし、もちろん彼女にもイキイキとした生活があった。輝ける未来を夢見る青春があった。当たり前だ。誰も惨殺被害者になる為に生まれては来ない。今回のタランティーノの企みは惨殺被害者ではないシャロン・テートの姿を立ち上がらせる事にあったのだろうし、そしてそれは成功している。
彼女が自分の出演している『the Wrecking Crew』を劇場に観にいく場面にその全てが集約されている気がしてならない。まだ顔パスが通用するようなスターではない駆け出しの女優である彼女が、自分の出演場面をキラキラとした目で観ているシーンにわたしは泣きそうになった。彼女の瞳は未来を見つめている。観客の反応を気にしながら時にはにかみ、時にドヤ顔をするシャロンの可愛らしさ。マーゴット・ロビーのクールな美しさの中にあるキュートな部分が発揮されていて素晴らしい瞬間だった。その輝ける日々がやがて訪れる悲劇へのカウントダウンのようでもあり、変えられない過去を目の前にしながら無力な状態である事実に言いようのない感情が沸き起こる。彼女の過去はもう、決まっている事だ。われわれには救う事が出来ない。ああ、何という哀しさ!
一方で、リック・ダルトン(レオナルド・ディカプリオ)とクリフ・ブース(ブラッド・ピット)のふたりの物語は楽しくも哀しい。ハリウッドという世界からこぼれ落ちそうになるリックの焦りと足掻きを貫禄たっぷりに演じるディカプリオは流石だった。特に西部劇の悪役をバタつきながらも演じ切る場面の圧倒的パワー、白眉でしたね。
クリフが牧場を訪ねる場面のスリルも素晴らしい。独特の不気味な空間に切り込むカウボーイ的大胆さと飄々としたやり取りはブラッド・ピットらしさが全開。と同時にこれが〝あの集団〟である事が示唆される事も含めてヒリヒリとした緊張感が来るべきエンディングを予見させる場面でもあった。
そうしてボンクラ達のワンスアゲインの物語とシャロン・テートの物語は交差するようで微妙なすれ違いをしていく。それが終盤のエンディングでとんでもない出会いをするというカタルシスは素晴らしいの一言。くっそ最高の救済。わたしは思わず拍手喝采したい気分だった。
映画ネタが満載のタランティーノ作品の中でも、これほど真っ正面から映画業界を描いた作品はなかったはずだ。そういう意味でも集大成感は確かにある。ダラダラと続く車の移動、画面に溢れる生脚、映画館、ドラック、三すくみ状態…などなどタランティーノ印が各所に刻まれながらそれらが嫌味なくバランスよく成立していたんじゃないかな。
3時間近くの上映時間は全く気になりません。いやむしろその長さこそが必要なのです。それでこそラストに最高のカタルシスがやって来る。
最後に雑感メモを。
- ルーク・ペリー、これで復活しそうなほど良かったのに…。
- ダコタちゃん、クレジット観てなければ気がつきませんでしたよ。
- 李小龍の描き方(ビッグマウス振りとか)はそれほど気にならないけど、ビジュアルはもう少しクールな感じにして欲しかったかな。
- リックが作ってたマルガリータ、めちゃ美味そう!そしてクリフが作ってた料理クソ不味そう!でも食べたい!
- マックイーン、似てたね。
- ウマ・サーマン&イーサン・ホーク、ブルース・ウィリス&デミ・ムーア、アンディ・マクダウェルの各娘が勢揃いってのもなかなか。
- 意識高い天才子役、いや俳優の人良かったねえ。名前がわからない。
とまあ、あげていけばキリがないのでこれくらいに。
さてサントラでも買うか。