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ワンス・アポン・ア・タイム・イン・リバプール【映画】『イエスタデイ』雑感。

現時点での記憶そのままに過去に行き、人生をやり直してみたいという欲望はおそらく誰しもが一度くらいは考えてみたことのある夢物語ではないだろうか。

その世界においては、過去の自分の失敗や後悔を修正しリセットする事が可能であり、また多くの点でアドバンテージを得ている訳で、その優位性を利用して万能の神として存在する事すら可能だ。

という事で観てきました。

『イエスタデイ』

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映画『イエスタデイ』予告 - YouTube

ワーキングタイトルの刻印だけで信用度が10%くらいはアップするし、リチャード・カーティス名前でさらにそれは30%加算される。ダニー・ボイルの程よいケレン味も悪くない、というか流石ではあるのだが、マイク・ニューウェルだと完璧だった気がするほどに、ロマンティック・コメディとしては申し分のない仕上がり。

ビートルズの存在しない世界、そんなものはあり得ない訳で、そもそも世の中が成り立つ訳がない。それはオアシスが誕生しないどころの話しではなくて、世界の色がなくなるほどの欠落となるはずだ。

仮に自分がそんな世界にいてもビートルズをこの世に再現させる事なんて出来ない。エリナー・リグビーの歌詞が出てこないなんてレベルではない。イエスタデイを弾き語る事すら出来ない。

主人公ジャックがそんな世界へ放り込まれたのは天啓であって彼が背負った十字架の大きさは計り知れない。彼はこの世界にビートルズを降臨させないといけないからだ。そりゃ助けてって、叫びたくもなる。(あの〝ルーフトップ・コンサート〟のヘルプ!、良かったねえ!)

所々に散りばめられているビートルズネタは全てを把握はしきれない。気がつかない細かい遊びが台詞にも隠されているのだろうとは思う。

その中でも終盤に出てくるあの人の登場はなかなかの演出であった。〝そうでなかった人生〟は〝そうであった人生〟より価値がないのか。そんな事は誰にもわからない。世界的ミュージシャンになっていなくても、寂れた漁村で友人の似顔絵描きながら静かに暮らす余生の方が遥かに幸せなのかもしれない。そういう点では少しだけ「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」にあった救済を感じる場面でもあった。少しだけね。

リチャード・カーティスらしいラブの行ったり来たりは湿度低めでバランスもバッチリ。やや既視感のある部分も含めて安心して観ていられる。裏を返せば大きな驚きや衝撃がある訳でもないが、しかしそれはそれでノー・プロブレム。

ジャックを演じたヒメーシュ・パテルも魅力的だし、それを取り巻く家族や友人達の存在も実にそれらしい設定で楽しい。付き人のロッキーばかりでなくニックやキャロルの存在も程よくて良い。こういう友人枠の存在はメインストーリーに大きく関わる訳ではないけど間違いなく味付けとして必要であって、そういったサブキャラクターが上手く作用しているかどうかは映画の出来映えを大きく左右するものだと思っている。

そして何よりもリリー・ジェームズですよ!良かったねえ!『ベイビー・ドライバー』の時のキュートさとはまた違う魅力。その瞬間の全てが愛おしくなるような、表情や仕草の全てがとにかく可愛い。ややロマコメ仕様に過ぎるという気もしないでもないけど、そんな事が気にならないくらいに切なさとキラキラが同居していた。ちょっとジョン・ヒューズ製作の『恋しくて』を思い出してみたり。

なるほど。いってみれば十代のころに考えるちょっとバカバカしいファンタジーなのかもしれない。ありえない人生のやり直し、ドラえもんがいてくれたらなぁレベルの。しかし、それを嗤うことはわたしには出来ない。おそらく人生を折り返した今、それは必要なファンタジーなんだろうね。過去を精算する事やリセットする事は現実的には難しい。しかし、これからの人生を少しでも輝かしいものにする事は出来る。

という事を考えてみれば。最後の最後、エリーに捧ぐべきは本当はこの曲だったんじゃないかな。

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