妄想徒然ダイアリー

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ありのままでDDT決めるのよ。【映画】『ファイティング・ファミリー』雑感。

まさに今ブレークしていると言っていいファーストサマー・ウイカさん。彼女の事を知って半年程度だが、色々と見ていくうちにとても自己分析能力が高くまたプロデュース力も優れた人という事が段々と伝わってくる。

もちろん彼女の現在は天性のものだけで成立している訳ではなくて、その影には色んな汗や涙が流されてきたはずで。

きっと、そういった事を疎かにしてこなかった者にこそ、道は開けて行くのだろう。と同時にそういった道が開ける者には、スペシャルなサムシングが備わっているのかもしれない、とも思う。

という事で観てきました。

『ファイティング・ファミリー』

予告編→https://youtu.be/YmzeFTqsCq4:『ファイティング・ファミリー』予告編

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わたしのプロレス体験は古舘伊知郎が実況していた頃の新日本プロレスで止まっている。それ以降は各種メディアに流れている情報をチラホラと目にしていた程度だ。

だからプロレスについてもWWEについても深い思い入れがあるという訳ではない。もちろんWWEがレベルの高いエンターテインメントを作り出している団体だということは知っている。マクマホン家を巡る物語が過剰な語り口で繰り広げられている事やもちろんロック様経由で色んな映像を目にしたりはしている。でもそんな程度だ。

そんなプロレス者でないわたしだが、この映画を観てどうなったかと言うと…。

落涙ですよ!例えではなくて実際目尻から水滴ポロリですよ。

おそらくそれはこの作品がワンスアゲインの物語としてよく出来ているからだと思う。

主人公であるサラヤ/ペイジは勿論のこと、兄のザックやペイジのトレーナーであるモーガンのワンスアゲインな要素も含んでいて、そのバランスが絶妙(同期の女子レスラー達にも物語がある)であらゆる場面で涙腺が刺激されクライマックスでは完全に泣いていました。

特に兄のザック。彼が成功して夢を掴んでいく妹に対して抱く複雑な感情をジャック・ロウデンが巧みに演じている。ふとした表情の変化でそれを伝えてくる彼の演技は胸に迫るものがある。

そういったワンスアゲインの物語に心動かされる理由には、「持つ者と持たざる者を隔てる何か」について描いている事も理由のひとつかもしれない。ペイジとザックを隔てる「特別な何か」、あるいはペイジと同期の女子レスラー達との間にある軋轢(しかもそれが双方向的)、ロック様とモーガン…などなど。

そういう視点で見れば両親とペイジも、ナイト家長兄のロイとザックも、はたまたザックの道場に通う生徒たちと社会全体にもそういう隔たりが見えてくる。

この作品がわたしの心を撃つのはそういう「他者との隔たりを感じながら、それでも、もがいて生きていく姿」が描かれている所なのかもしれない。

と同時に「スターにならなかった/なれなかった人生」が無価値ではなくて、そういった人生にももちろん輝きはあるのだ、という事も感じさせてくれるそんな視点がある事も忘れてはならない。ザックの人生は決して無意味ではない。そんな赦しと救済が一気に訪れるラストのカタルシスは素晴らしかった。

ペイジを演じたフローレンス・ピューは初めて観たけど不思議な魅力のある人でとても良かったけれど、やはりザックを演じたジャック・ロウデンを今作のMVPとしたい。

類型的になってしまいそうな役に観客が感情移入出来たのは、彼のとても繊細なアプローチがあったからこそだろう。複雑な葛藤を嫌味なく消化して表現していて、とにかくトライアウト以降の彼には泣かされっぱなしだった。

トレーナー役のヴィンス・ヴォーンも素晴らしかった。彼の演じたモーガンもまた「スターになれなかった人」であり「特別な何かを持っていなかった人」で、そんな彼がスター候補生達を鍛えていく姿にグッときてしまう。ジャーニーマン/職人ときて自分の役割を全うしていく矜持のようなものに胸を打たれてしまう。

監督のスティーヴン・マーチャントの特徴なのかどうか判らないが全体的に台詞ではなく僅かな表情の変化などによってその心情を表現するスタンスがこの作品には多く見られ、それがとても効果的だったが、特にこの2人の演技はそれを裏付けるものでとても良かったと思う。

という訳で、久々に拾い物的な嬉しさのある快作でした。WWEが観たくなる。