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この臭いは拭いきれないのか。【映画】『パラサイト 半地下の家族』雑感。

風呂なしアパートに住んでいたハタチそこそこの頃は、やはり高台の住宅地は眩しく見えて思わず呪詛めいた事を呟きたくもなっていた。『天国の地獄』の山崎努にシンパシー、いやシンパシーというよりは否応なく同調させられて無駄にルサンチマンを溜め込んでいた気がする。

という事で観てきました。

『パラサイト 半地下の家族』

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予告編→ YouTube

裕福な家庭に徐々に侵入いや浸透していく様子が描かれていく過程は、通常であれば被害者である家族側の視点に立って侵入者への恐怖を感じるホラー的展開になる筈だ。

しかし、わたしを含めて多くの観客はキム一家がコンゲーム的に計画を進めていく様子をある種の快感を抱きながら眺めていたのではないか。それはユーモラスな描写であった為でもあり、また彼らキム一家がパクさん一家には決定的な被害を及ぼしていないからでもある。

彼らが犯しているのは、せいぜいが留守の間に宴会を開く程度で彼らの生活そのもの、その根本を激しく脅かすには至っていない。ある時点までは。

ソン・ガンホは流石という他なく、本来であれば恐ろしくなる役どころにピュアネスすら与えていて、その存在感が素晴らしい。

その他のキャストも皆魅力的だ。パグさんの奥さんや娘さんダヘちゃんも可愛らしい。

しかし特に印象的でわたしの心を捉えたのは、妹ギジョン役をやっていたパク・ソダムだ。彼女の醸し出す退廃と絶望感が産み出す美しさ。ある場面でタバコを吸う場面、心奪われた。

※これよりネタバレ状態になります。

 

パクさん一家がキャンプに出かけた日、キム一家は豪邸で伸び伸びと暮らす。無論それは許されない行為ではあるが、ささやかな楽しみに過ぎない。大きなリビングにいながら半地下の家にいる時と同じように身を寄せ合っているキム一家の様子は、窓から見える風景は違ってはいるものの普段の生活と地続きと言っていい。

留守の主人の不在時だけの試み。彼らが戻ってくるまでには粛々と元の状態に戻し、パク一家の生活を壊す事はしない。ほんのちょっとだけ、彼らの腹が痛まない程度、そのレベルを逸脱するつもりはキム一家にはない。

そんなキム一家の計画が崩れるのは、本当のパラサイトが現れたからだ。リアルな地下室でゴーストのように暮らしているパラサイトが今度はキム一家の目論見を崩壊させる。

しかしパクさん一家からしてみればキム一家も地下室のパラサイトも変わらない。同じ臭いを放つ異物だ。いくらケヴィン先生やジェシカ先生の振りをしていても身体に染み付いた臭いは拭いきれない。パクさん一家の善意は無意識に残酷さをもってキム一家を追い詰める。

大雨とともに高台の汚れは洗い流され、その汚水がキム達の家に向かっていく。便器から溢れる汚水を浴びながら煙草を吸っていたギジョンは、その翌日にジェシカとなってドレスを着てパーティー会場にいる。もしかしたら贖罪の意識で何かを取り戻そうとする希望を持っていたかもしれない。しかしそんな思いは胸を刺されて「クソッ」と呟いた瞬間に消え去った。

娘ギジョンが刺されたその同じ位置を狙い定めてパク社長を刺殺した時のキム父は誰の為に誰にリベンジをしたのだろうか。

ギウが最後に見た赦しと救済のイメージは半地下の現実とともに我々の目の前から消えていく。おそらくそれは実現しない幻だろう。しかし、その幻を夢見ることぐらいは半地下の住人にも許されてもいい筈だ。