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プリゾナーズNo.5。【映画】『眉村ちあきのすべて(仮)』雑感。

映画の中に一瞬でも心を掴むような輝きがあれば、その作品には価値あるといって良い筈だ。

という事で観てきました。

眉村ちあきのすべて(仮)』

映画「眉村ちあきのすべて(仮)」特報 - YouTube

映画「眉村ちあきのすべて(仮)」特報2 - YouTube

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まずは『トーキョー・ロンリー・ランデブー』から。インディペンデント感溢れる画面とやや説明的なセリフに思うところもありながら、それでも工藤ちゃんさんがスーパーカップを買うシーンやライブハウスの階段を上がっていくショットなど好きな場面もあり、またおかありなさんの曲も良い。というそんな印象でした。

 

さて、しばしのインターバルの後、『眉村ちあきのすべて(仮)』が始まる。

まあ、ネタバレがどうだという作品ではないと思うし展開を知ったからという理由でこの作品を楽しむ事が出来ないという訳でもないとは思うけれど、それでも予備知識なしで鑑賞した方がより映画のダイナミズムは味わえるでしょう。と同時に全く眉村さんのことを知らないで観るのはハードルが高いのも事実。

以下ネタバレを多分含みます。

 

 

 

 

ドキュメンタリー風に始まる本作。しかし、冒頭で眉村さんが〝teeth of peace〟を作っている場面はおそらくフェイクだろう。一方で、作為のない(であろう)嶺脇社長や吉田豪さんのインタビューといったドキュメンタリー部分の存在感はリアルであり、そういったリアルが徐々にフィクションへと変容していく様はなかなか快感でもあって、虚実が混じり合う刹那はマジックアワーのような不思議な感覚があった。

フィクションの中に混じることで「リアルな」LIVE映像も次第にその姿を変えていくわけで、まるでわたし達が観てきた眉村さんが別な何かであったかもしれないという錯覚すら抱く。そういう意味ではやはりある程度は眉村さんを「体験」し触れてきていることはこの作品を観ていくうえで必要な事であるのかもしれない。

となればこの作品が多くの部分でファン向けムービーである事も避けられない事実で、どれだけの普遍性をこの作品が獲得しているのかどうかは正直に言うと自分には判断出来ない。眉村さんの事を初めてこの作品で知った、触れたという人がどのような感想を持ったのかを聞いてみたい。と思ってみたりもしたが。

でも実はそんな事はどうでも良いのだ。

例えば眉村さん主演の映画としては『夢の音』というものがある。比較的直線的に進んでいくストーリーが軸となっているこの作品は、いわゆる「普通の映画」の形を持っていたが、裏を返せば主役の女の子は眉村さんでなくても成立すると言える。しかし、その眉村さんが主役でない『夢の音』をわたしが同じように楽しめたのかどうかは怪しい。

一方、今作は眉村ちあきという存在が大前提の作品だ。ストーリーをまとめる事は出来る。もったいぶった言い方をすれば、失われたアイデンティティ復権と再生の物語、だ。さらに言うなら、それは現実社会の中で増幅していく「眉村ちあき」というイメージへの畏れや危機感の顕れであるとも言える。

でも、そんな事もどうでも良い。

眉村さんの演技の上手さは『夢の音』で既に証明済みで、今作でも様々なキャラクター(コーチと2番のキャラは個人的お気に入り)の演じ分けを見てればそのポテンシャルの高さは判る。異ジャンルの人の演技は概ね「味がある」という評価になりがちだけど、眉村さんの場合は普通に上手い。おそらく演技のベーシックな素養は習得しているんだろうと思う。いわゆる「感性でねじ伏せる」的なものというよりも、素朴ながら芯のある演技にわたしには見える。

でも、それも大事な部分ではない。

徳永えりさんと対峙する眉村さんは確かに良かったけれどもそこは大きな問題ではない。

では、どこか。どこにわたしは心奪われたのか。アカペラの〝リアル不協和音〟だろうか。これも違う。確かに素晴らしいシーンだった。でも、もっともっとわたしの心を鷲掴みにした場面がある。

それは終盤唐突に訪れる。眉村さん演じる「5番」はある場所へ向かう。彼女にとってそこは様々な困難や障害を越えてでも行かなければならない場所だ。

だからこそ彼女は走る。夕暮れの街をあの場所へ向かって走る。その時カメラが捉えた「5番」の横顔!!!!

あの横顔こそがこの映画そのものであり全てだ。

「5番」がここでみせる表情を上手く説明する言葉をわたしは知らない。悦びでも哀しみでも諦めでも強い意志でもない。或いはその全てかもしれない。そんな表情がほんの一瞬だけ現れる。この表情にわたしは目を奪われた。ここが観られただけでもお釣りが来る、とわたしは言いたい。

最後にわたし達の目の前に出てきたのは果たして「5番」だろうか。わたしは違うと思う。

その理由は説明出来ないのだけれど、あの横顔を見ているとどうしてもそう思えてしまう。彼女はそれを選ばないのではないか、と。様々な解釈が出来るだろうけど、わたしはそう思う。

そしてこうも言えるだろう。「5番」が現れるのはあの場所よりも先、もっと向こうにある大きな世界、だと。