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夢みるように眠れたら…。【映画】『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』雑感。

考えてみればスターウォーズだっていきなりエピソード4から始まるし、なんの説明もなく兜被った黒ずくめの男が出てきたり光る刀を振り回したりしていたのだし、物語というのは時に突然始まるものなのかもしれない。

という事で観てきました。

劇場版「鬼滅の刃」無限列車編

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劇場版「鬼滅の刃」無限列車編 本予告 2020年10月16日(金)公開 - YouTube

もちろんそれまでも存在は知っていたしパロディやオマージュも目にしてきた。フィロソフィーのダンスのあんぬちゃんがハマっていたり、眉村さんがコスプレしているのも観てきたが、何となく読まない(観ない)ままここまで来た。その事に深い理由やこだわりはない。そして二週間前にふと原作コミックをKindle大人買い。一晩で一気に読み終え、続けてアマプラでアニメシリーズを追いかけるという典型のスタイルにハマっている。となれば観にいかない選択はない。そして噂通り、涙腺を刺激する作品でした。少年たちのちょっとビターな成長物語としても良く出来ています。

冒頭にダイジェスト的な説明パートを入れる事なくその世界の成り立ちは自明なものだというようにスタートさせるのは、ある面では大胆。しかしそれは潔さの現れという事も出来る。

その一方で、確かに全くの初見だとすると炭治郎と禰豆子の関係性や善逸の覚醒(寝てるけど)のカタルシスなど各キャラクターへの共鳴度はどうしても低くなるかもしれない。伊之助の異物感とか。

その点、煉獄さんについては原作コミックでも登場シーンが限定されていて、キャラクターへの共感の度合いは初見でも差は出ないはずだ。その点からも無限列車エピソードにフォーカスを絞って作られた事は成功していると思う。

個人的には(というか多くの観客にとってもそうだろうけど)、炭治郎の夢の場面と伊之助のプルプル、煉獄さんの笑顔にヤラレました。

原作コミックが持つ魂の救済と赦しは主に鬼に向けての慈しみの眼差し(※話は逸れるけどこういた眼差しは『この世界の片隅に』ですずさんが描く「鬼イチャン冒険記」を思い出させる。戦死したとされるあの乱暴な兄をマンガとして救い出し再生させる慈愛)として表現されている。そういった魂の救済の裏返しにあるのが魘夢(変換できた!)の操る悪夢だ。彼が炭治郎に見せている夢は淡く甘い。それだけにその誘惑は悪魔的で、その世界にある〝かつてあった日常〟に留まる選択をしたとしても、それを決して愚かとも言い切れない。過酷な現在から遠く離れた何もない日常、それは思い描く理想の世界に違いない。それだけに悪夢の残酷さが際立つし、それを断ち切る炭治郎にグッと心動かされてしまう。魘夢が利用しようとした炭治郎の「生き残ってしまった」罪悪感は家族愛の前では無効でそれを怒りに昇華させて抗う姿が良いのです。※この辺り、グダグダと悩まないのも好印象。

で実質今作の主役である煉獄さん。炭治郎たちのメンターとしての貫禄と大きな器。それは「大いなる力には大いなる責任が伴う」的な母親からの教えに基づいた彼の生き様そのものにも通じていて、だからこそあの笑顔がねぇ…泣けてしまう。エンディングクレジットも含めてズルイくらい。CVの日野聡さん、わたしはこの界隈詳しくないのだけれど煉獄さんのキャラクターにもよく合っていて序盤の少し風変わりでマイペースな人物像から徐々に頼れる兄貴的キャラになっていくあたりはなかなかでした。

土曜日の午前中の回という事もあり、場内には小学生以下の姿も多く見られた。思いのほかみんな静かに見入っていたようで騒ぐような子はいなかった。終盤になるとすすり泣く様子もあちこちから聴こえてきてたが、おそらくそれは親世代の方の心を突いているような気がする。

それと、これは原作の頃から頭の片隅にあるんだけど魘夢の身体のシェイプに隠された意味合いが何かあるような気がするんだけどこの辺りは自分でも消化しきれていない。

あとわたしはIMAXレーザーで鑑賞したが、果たしてどれだけ他の環境との間に優位性があるかは判断できなかった。別な作品の時には「やっぱりレーザー綺麗だなぁ…」と感じたけれど、今回はその辺りよく判らなかったというのが正直なところ。それと個人的にはCG感の強い描写(魘夢の第二形態のモコモコとか)には少し違和感があった。それでも戦闘シーンには原作コミックだけでは味わえない迫力があるし、夜明けの描写は美しかった。「紅蓮華」を使わない大胆さも良いし、エンディングの「炎」はかなり染みてくる。

これだけ特大ヒット作となるとむしろ過小評価される傾向にあるとも思うけど、このご時世に劇場が賑わっている事も今後の興行界にとってもエポックなイベントであるのは間違いない。

という事でこの続きの物語がTVシリーズの二期で描かれるのか或いは再び劇場版として作られるのかは分からないが、わたしはコミック22巻までしか読んでいないので、早く最終巻を手にして炭治郎たちの物語の行く末を見届けたいし、わたしはそれを震えながら待つのです。