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青い瞳にさよならを。【映画】『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』雑感。

予告編を劇場で観てから一年以上は経つだろうか。もちろん作品そのものを待ち望んでいた事もあるけれど、何よりエンタメの復興の狼煙或いは祝砲としても、とても喜ばしい。そういう意味でいうとお正月作品として観たかった気もしますね。

映画『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』最新予告 - YouTube

『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』

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気になるところがない訳ではない。或いは007原理主義者(という人達がいるかどうか知らないけど)的視点から批判がありそうな感じもしないでもない。けれど、15年に渡るクレイグ版ボンドのフィナーレとしてわたしは満足できた。

いわゆる007的ケレンのある楽しさは序盤からキューバ編までという感じで、後半はジェームズ・ボンドが締めくくりへ向かっていく寂しさが画面を支配していたような気がする。

キューバ編で印象的だったのはやはりパロマですね。演じるアナ・デ・アルマス(『ナイブズ・アウト』の看護士役も印象的だった)がとても魅力的だった。今回出番は少なかったけど、所謂ボンドガール的な華やかさというよりはバディ感のあるカッコ良さがあって、まさに今の時代に相応しい立ち位置と言える。

キューバ編以降は、MやQといったお馴染みの面々とともに動いていくけれど、ボンドは途中からスーツも着ないしパーティにも行かない。画面だけ見ていると007感はかなり減ってきているだろう。しかし、上映時間が進むにつれてダニエル・クレイグへのさよならの時間になっていくようで段々と感情が刺激されていく。

サフィンを演じたラミ・マレックの繊細な演技はとても良いけれど、悪役としてはもう少しインパクトが欲しかった気もする。一歩間違えるとトンデモニッポンになりそうな島の描写にも(悪い意味で)ドキドキはしたけれど、まあでもしかし、彼の復讐心というものは最後の最後まで気品と威厳を保っていたんじゃないでしょうか。結局のところボンド(とマドレーヌ)に強い一発を食らわしていくところなどはなかなか複雑な気持ちにもなる。

そして何よりマドレーヌを演じるレア・セドゥの瞳、眼差しが素晴らしい。序盤のボンドとの蜜月シーンのキュートな魅力もあれば、強い意思を感じるキリッとした表情があったり、全ての場面において観る者の感情を揺さぶるパワーがあった。

これまでのエヴァ・グリーンオルガ・キュリレンコ、そして、ジュディ・デンチ(ですよね、スカイフォールのボンドガールは)も勿論素晴らしかったけど、やはりレア・セドゥが印象に残ってしまう。

前半大人しかったハンス・ジマーの音楽は終盤に来てそのパワーを発揮し、特にクライマックスのスコアは最高だった。ボンドとマドレーヌの会話シーンは感情にブーストがかかるようだった。果たしてそれが007作品として正しかったかどうかは判らない。おそらくは(原理主義的には)正しくないような気がする。でもわたしはどうしようもなくそのスコアに反応してしまう身体なので、快楽に近いものを得ていました。

160分以上ある上映時間も全くと言っていいほど気にならなかった。作品単体としてはシリーズ最高の出来とは言えないかもしれないけれど、今はダニエル・クレイグの007シリーズへのお別れと感謝の気持ちをエンディングクレジットを眺めながら抱いていたのです。