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湘北ユニフォームドリンクホルダー。5番があってもいいと思うんだ。【映画】『THE FIRST SLAM DUNK』雑感。

好きなシーンを上げればキリがないスポーツ漫画のマスターピースである一方で、TVアニメシリーズについてはそれほどの思い入れもなく、そういう意味では上映前のプチ炎上はわたしにとっては余り意味を持たなかった。

映画『THE FIRST SLAM DUNK』CM30秒 試合開始まであと1日【2022.12.3 公開】 - YouTube

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割とフラットに「ハイレベルな作画と進化したアニメーション技術でコミックスのエキスが再現出来てれば良いかな」くらいの気持ちで公開を待っていた。それは冒頭において良い意味で裏切られた。原作のエッセンスのひとつである〝喪失と再生〟の物語に予想以上に真正面からフォーカスしている事に少なからず驚かされたし、割と早い段階で涙腺を緩ませていた気がする。

大勝負の試合を軸にキャラクター達の背景が掘り下げられていく語り口に、序盤から惹き込まれていった。メインキャラクターだけでなく対戦相手についても語られる事で、物語に厚みが生まれる。この辺りは、原作通りというか井上雄彦節と言ってもいいと思う。そして(おそらく多くの人が思い浮かべるように)ドカベン』31巻が重なってくる。

確かに原作を読んでいるか否かで、各キャラクターやエピソードへの深度は変わってくるだろう。初見でこの物語に触れた時に、どれだけ感情移入できるかはどうしても差が出てきてしまう。小暮くんの「頑張れ、三井。頑張れ赤木」に涙出来るのは原作を読んできた者の特権かもしれない。その一方で、ダイジェストにならないギリギリのところでエピソードを取捨選択した苦労も伺える。有名過ぎてパロディになりかねない名シーンを敢えて避けたのも正解だったと思う。

そして試合の描写が素晴らしかった。結末は分かっているのに展開にドキドキさせられる。実際の試合を観ている気になった、というのもそれほど大袈裟ではない。正直、予告編の段階では「なんかデジタルのヌメヌメした動きが微妙だな」と思っていたけれど、それは杞憂だった。ボールの弾む音やシュートの際の手首の動き、リンクを通過するボール(「静かにしろい。この音が俺を甦らせる。何度でもよ」)等が、ある種の荒唐無稽な展開にリアリティを与えている。クライマックスの描写も大正解だった。言ってみれば原作通りだけれど、それはそれでなかなか勇気のいる選択だったと思う。緊張感とそこから訪れるカタルシスが増幅されていた。(余談だけれど、試合会場でモブの観客の描線が少し粗っぽいのも原作の再現のように思えてしまったり)

この作品の中心を貫く喪失と再生の物語は、赦しと救いを持って締めくくられる。とても良いエンディングだと思った。それは我々が誰しも(濃淡あれど)そういったストーリーを抱えているからだと思う。当然のようにスラムダンクのキャラクター達にもまだ語られていないストーリーがあるはずだろう。けれど、その多くは語られないまま終わっていく。わたし達の物語と同じように。それが人生そのものであるかのように。

わたしは鑑賞前に劇場のコンセッションで背番号入りのドリンクホルダー付きの烏龍茶を買った。迷う事なく14番を選んだ訳だけれど、やっぱり5番があっても良いんじゃないかと思うのです。