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まだ神様じゃないけれど。【映画】『AIR /エア』雑感。

ベン・アフレックマット・デイモンという座組だけでもう信頼度は充分だし、その期待を裏切らないものだった。

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映画『AIR/エア』予告 2023年4月7日(金)公開 - YouTube

冒頭のダイアー・ストレイツが流れて1984年のカルチャーが怒涛のように溢れてくるタイトルバックでもう白飯5杯。スタローンの作品が『クラブ・ラインストーン』になってるあたりになんとも言えない当時の空気感があって、堪らない。「さてこれからあの頃のお話始めますよ」という導入時としてはド正解だった。(実は『マネー・フォー・ナッシング』は1985年の曲とかいう指摘を見かけたりしたけど、まあそんな事言えば『ロック・ザ・カスバ』も『タイム・アフター・タイム』も違うっちゃ違うし、この曲が流れるには理由がある)

全編に渡って大音量でBGMで埋め尽くすという MTV的映画の手法を取っているのは、当時の時代性・空気感の再現の為に敢えてそうしていると感じたけれど、と同時にノスタルジックな感傷を刺激したことも事実。ロバート・リチャードソンによる撮影もどことなく80年後半から90年代の頃に観ていた映画のルックを思い起こさせる。

というと当時に10代を過ごしたような50代の人間(つまりはベン・アフレックマット・デイモンと同年代)に向けた作品のように見えてしまうけれど、この作品はそれだけのものではない。

ビジネスサクセスストーリーとしての楽しさやバディムービー的なワクワク感もあるけれど、やはりマイケル・ジョーダンというとてつもなく大きな存在を巡る物語としての要素が強い。この作品は決してマイケル・ジョーダンの自伝ではないが、しかし彼の存在そのもの、大いなる力をもってしまった者がわたし達にもたらして来たモノについての物語だ。

1984年において彼は有望なスター選手候補に過ぎない。もちろんわたし達はマイケル・ジョーダンがとてつもなく偉大なアスリートになる事を知っている。エア・ジョーダンが世界中で売れまくれ、あの有名なロゴが街中に溢れる様を見てきた。そして、そのとてつもない栄光が彼の人生に光を当てるだけではない事も。そういった光と影(というと余りにも陳腐だけれども)がこれから神様になろうとしている若者に起こるという事実の前に震えるような感覚があった。それはもしかしたら畏怖というものなのかもしれない。(それを知らしめる大事なシーンが終盤にあるけれど、こういう重要な場面になるとあれだけ鳴っていたBGMがパタリ止まる)

エア・ジョーダン誕生を巡る様々を観てきたわたしにとって、冒頭に流れた『money for nothing 』の意味合いが見終わった後に大きく変わってくる。シグネチャーシューズによる収益は、何もしないで得たマネーであるわけがない。とてつもない才能が生み出す新たな文化、それがエア・ジョーダンであり、マイケル・ジョーダンなんだね、と。