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「プラグ、取り替えようか?」【映画】『辰巳』雑感。

前代未聞のジャパニーズ・ノワール!映画『辰巳』予告編 - YouTube

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身体の芯にズンと手応えを感じる映画だった。ハードな描写が続くけれど、鑑賞後には救い(のようなもの)の瞬間も訪れたりもする。多くの人が『レオン』を想起するだろうけれど、確かに枠組みは一見同じようでいながら、ファンタジー要素をぶっこ抜いたような肌触りがある。ドライさがマシマシになっていて個人的には好みだった。

いわゆる説明的台詞は抑えられていながら登場人物を取り巻く状況が伝わってくる描写は、派手さはないけれども、それが逆に信頼感に繋がっているような気もする。一歩間違えればクリシェとして陳腐になりかねない場面もないではなかったけれどそれはギリギリのところで回避されていた。

辰巳を演じた遠藤雄弥や葵役の森田想のパフォーマンスも素晴らしかった。ちょっとした表情の変化や眼差しによって内面の機微が伝わってくる。遠藤雄弥さんはこれまでも色んな作品で目にしていたけれど、主役という形でここまでポテンシャルを発揮されるとは想像していなかった。安易な感情に流されることなく、ドライでハードボイルドに行動しながらも、どこかにエモーショナルなシルシを残すキャラクター造形がとても良い。森田想さんは、登場からインパクトを残す。場面ごとに色んな表情をみせる巧みさもあって、こんな才能のある人が出てきたのかという驚きと発見があった。2人以外のキャストもそれぞれ印象的だった。兄貴や後藤、竜二をはじめ、それ以外のキャスト(一瞬しか出てこない舎弟達も含めて)の存在感、その佇まいにはリアリティがあった。

そして、この映画は車がもうひとつの主人公と言ってもよい。だからこそ車を捉えたショットがとても良い。例えば停車しているところや乗車している人物を外から捉えるショット、そのルックがいちいち映画的であった。廃車工場や猥雑さに満ちた路地裏、そしてカルデラを思わせる風景を車が走っていく場面には、美しさと不穏さが同居したようなとてつもない絵力があって、これもまた実に映画的な瞬間であった。

さて。

この作品に出てくるキャラクターは裏街道で生きて行く(しかない)アウトロー達だ。いろんな場面でキーワードのように「(ここ以外に)行く居場所なんてない」という台詞が繰り返される。まるで負のスパイラルから逃れられない世界で、一瞬わたしは『ウィンターズ・ボーン』を思い出したりもした。葵も半ば諦めかけているかのように、抜き差しならないアウトローの世界に身を委ねざるを得ない。と同時にそこから這い出していけない事への苛立ちもあって、彼女が唾を吐く対象はそういったどうしようもないシガラミに満ちた地獄のような世界そのものなのだろう。だからこそ、彼女が握るハンドルに、もしかしたら救済のシルシを見出そうとわたしはしているのかもしれない。アオイ、ドライブ・ユア・カー。