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鮭の皮と巻き戻せない青春。【映画】『カラオケ行こ!』雑感。

映画『カラオケ行こ!』本予告(90秒)【2024年1月12日(金)公開】 - YouTube

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人気コミックの実写化に関しては余り興味は沸かない方だけれど、和山やま×野木亜紀子×山下敦弘という座組となると話は別だ。和山やまさん原作の独特のオフビート的な雰囲気がどこまで映像化で再現出来るかという懸念がない訳ではなかったけれど、エッセンスを残しつつ野木さんのオリジナル要素が上手く作用していたように思う。とても良い青春映画になっていた。

中学生という不安定な時期の微妙な感情の揺らぎ、青春の輝き、そのむず痒さが絶妙なバランスで描かれていたという印象。原作にはなかった映画みる部のくだり(巻き戻せないビデオテープ!)や副部長の存在によって聡美と和田(和田くん!可愛い奴よの)との関係性の解像度が増すあたり、流石の野木亜紀子さんだし、聡美親子や合唱部の絶妙な人間関係の機微の描き方には山下監督の安定感を感じた。設定はある種のファンタジーだし、コメディ的要素の強い作品だけれども、例えば同時に世の中に存在しているエグみ(雑多な人たちが蠢く街の生々しさ)が次第に失われていく事への目配せもあって、ドキリとさせられる場面もあった。

わたしはどちらかというと「アカツキだぁーーーー!」の方に馴染みがあるほうだけれど、『紅』にこれほど心動かされるとは思わなかった。英語詞の和訳のくだりは、目から鱗だったし、終盤の歌唱シーンはいわゆる「エモい」展開になっていてアツい。曲の疾走感と物語のクライマックスが合っていてとても良かった。聡美くんを演じた齋藤潤さんの成長物語と重なり、グッとくる。

人生はサブスク動画のように一時停止や早送り巻き戻しが出来ない。巻き戻せないビデオテープのように一瞬一瞬を見逃さずに捉えて行くしかない。〝映画みる部〟の部長くんが敢えてビデオテープで映画を観ているのも、そういった一過性の取り戻す事の出来ない体験をしようとしているのだと思えて、そういった限りある時間を生きて行く事の尊さが人生にはあるような気がするのです。