妄想徒然ダイアリー

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キリアン・マーフィーを待ちながら。【映画】『テネット』雑感。

なるほど確かに映画の鑑賞法に正しいやり方があるようにも思えて、作者の意図や制作の背景から演算して何らかの結論を導き出すのも楽しさのひとつではある。あるが、しかしそれはやはり鑑賞スタイルのひとつであって、なおかつ(それが正確だったという前提があっても尚)その正しさは保証されるものでは勿論ないし、むしろ誤解する事で得られるエクスタシーもまた存在しているのではないか。

というという事で観てきました!

『テネット』

予告編→https://youtu.be/jl0bT7rYIdM

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※決定的な展開には触れないつもりですが、それでも何らかのネタバレにはなると思います。

わたしは何ヶ月か前に映画館で流れていたオープニングシークエンスの特別映像だけで涎垂れ流してアヘアヘ言ってたような人間なので、何の参考にもならないとは思いますが、いやはや最高でした。

実はストーリーの骨子自体はシンプルだ。ある目的を達成する為にひとつひとつアイテム(情報)を集めていく主人公の姿、といっていいと思う。その過程において色んな場所・人物のところへ移動していく中で、ちょっと気を抜くと混乱しそうになる罠はある。まるでネット検索をしている時に、関連するリンクをどんどん開いていって「あれ?そもそも何を調べてたんだっけ?」となるようなそんな感じとでも申しましょうか。更にそこに時世を混乱させる仕掛けがあるので余計に事態をややこしくしているところはある。

でもおそらくノーランはそんなところも織り込み済みで、細かい辻褄を気にしなくても感覚的に状況を把握できるように作ってあって、視覚的なフラグが所々に立ててある事で右脳的理解が可能だ。映像として重要ポイントにアンダーラインを引いていある、そんな感じだろうか。何となく観ていても「あ。これあの時か!」とか「アレとコレが繋がるのね」というのが判る仕組みになっている。だから鑑賞前に解説的情報を予習する必要はない、と個人的には思っている。理解と混乱を巧みなバランスで調理してあるんじゃないかな、と。ノーラン先生も言っている。「無知こそ最大の武器だ」と。

冒頭のオペラハウス、空港、ヨット、カーチェイス…とあらゆる場面での映像的迫力は健在で、個人的にノーランのヌメヌメとしたアクションが大好きなんだがそれは今作でも堪能出来た。特にクライマックスのバトルフィールドではパズルのピースが徐々にはめられていく快感が混乱とともに訪れてきて、それが独特のカタルシスを生んでいるし、同時に撮影現場の事を想像するとスタッフの胃が心配にはなる。

そしてこれは直接作品と関係ないしノーランの意図とも全く無関係だけど、いまこの時期にこういう映画を久しぶりに座席の埋まった劇場で観られた、という事も感慨深い。何でもソコに繋げていく必要もないのだけれど、それでも不安定で不透明な世界となった今、時間と運命を巡る物語を届けられたというのも何か意味があるように思えてしまう。

現実には時間は戻せないし、起きてしまった事はもう変わらない。それでもより良い世界があるのではないかと足掻くのが人間だし、そのより良い世界はもしかしたら何かよくわからないモノによってもたらされているのかもしれない。それを何と呼ぶのかはわたしには判らないけれど。とそんな事も考えてみたりもする。

〝主役〟を演じたジョン・デヴィッド・ワシントンは勿論良かったけど、ニール役のロバート・パティンソンの存在感が素晴らしかったですね。わたし自身はクローネンバーグの『コズモポリス』以来だったけれど程よいやさぐれ加減と色気で良い年齢の重ね方をしているんじゃなかろうか。あとアーロン・テイラー=ジョンソン、クレジット見るまで気がつかなかった。

しかしですね、わたしが最後に声を大にして言いたいのは、ノーラン作品のランドマーク、キリアン・マーフィーは????という事でです。それだけは不満。あとハンス・ジマーも。いや今回のルドウィグ・ゴランソンの音楽も最高でしたけどね。

さて、落ち着いたらIMAXレーザーGTでもっかい観たい。