妄想徒然ダイアリー

映画と音楽とアレやコレやを

アリ•アスター盛り合わせ定食。【映画】『ボーはおそれている』雑感。

24/2/16公開『ボーはおそれている』予告編 - YouTube

f:id:mousoudance:20240222200127j:image

面白いじゃないか、バカヤロー。これは神話。

と、いう訳で。3時間という長尺と伝え聞く評判に二の足を踏んでいたが、冒頭から惹き込まれっぱなしで最後まで突っ走っていった。ハードルが下がっていたのかもしれないけれど、メチャメチャ面白かった。コメディでもあり、ロードムービーでもあり、そしてしっかりとアリ•アスター印のホラー。

冒頭の地獄のような街から始まる旅路は、出る人出る人怪しくて厭な人しかいない。最悪な方にしか事態が転がっていかないけれど、それぞれの出会いが生み出す物語の連なりには、『神曲』のような趣きがある。〝地獄篇〟と呼びたくなる導入部から「ははん、これは段々と天国へ向かっているのだね」と思っていたら、行きたく先はまた地獄だったという絶望が続くけれど、何故か思わず笑ってしまうところも多い。そこに潜む神話的な寓意については明確にわからないし、それを解いていくつもりもない。潰される顔や奪われた表情、因習的狂気、屋根裏や炎、怪しい食事、救ってくれない神といったイメージで心をざわつかせ、人間の厭な部分を突いてくる演出にアリ•アスター作品としてのカタルシスも感じたし、迷宮世界で終始困った顔をしているホアキンを眺めるだけで充分満足してしまうような、そんな3時間だった。

作家のインナースペースを覗くような作品は、共有化しにくい極めてパーソナルな表現になるもので、時には苦痛を伴うものだし、だからこそ人によってはこの3時間は苦行に近いのかもしれない。しかし、わたしにとっては積み重ねられていく物語を体験していく悦びのようなものがあった。不条理で悪魔のような世界が続くけれど、神秘的なものを観ているような感覚があったし、何なら爽快感すら抱いていた気もする。フェリーニ、スコセッシ、リンチとの類似性もわたしなとっては親和性の高いものだった。特に得体の知れない人物とのディスコミュニケーションが生み出すノイズのようなものが、わたしの波長と合っていたのかもしれない。いや、素晴らしい作品でした。

レイトショーからの帰り道、街には酔っ払いも多く駅のホームで下半身丸出しでうなだれている人も見かけたりしたけれど、ボーの住んでいた街に比べれば、平和でのどかな風景のようにも思えた。それはまた別の話。