怖さにも色々あって、スプラッター的怖さもあれば精神をキリキリと締め付けるような怖さもあって、後者の方が効果が持続するというかダメージがデカイ。
という事で観てきました。
『ヘレディタリー 継承』
予告編 https://youtu.be/H0JhliQDc4U
冒頭からイヤーな空気が満載で、それがずーっと続く。普通ホラー映画だとちょっとはハッピーな瞬間や息抜き的にホッとするような場面があるものだが、今作には全くない。最初っからコワイ。それが維持されたまま2時間突っ走っていく。
ただ窓を映しているだけとか部屋の隅を捉えているだけのショットにおける〝居心地の悪さ〟を帯びた空気感はどことなくJホラーに通ずるスピリットがあるように思えるし、と同時に(特に後半にかけてドライブのかかる)〝宗教的なものが生む気味の悪さ〟といったどちらかというと西洋的価値観に根ざした描写が混在している。それが何とも言えない恐怖をもたらしていたのではないか。母親の何気ない遺影が帯びているあの負のオーラ!あの瞬間からこの作品の成功は約束されていた気がする。
アニーの家族は予め崩壊が定められていたかのように最初からバランスが崩れている。細い糸一本で繋がっているだけのようで、ちょっとしたきっかけでバラバラと崩れてしまうような危うさ。ナッツ入りのケーキを食べてしまうだけでその糸は切れてしまう。
この作品ではそういった家族関係の不安定さが生む嫌な気分の波状攻撃も凄い。夕食の場面でのアニーとピーターのやり取り、或いはピーターの部屋でアニーが思わず漏らしてしまったある感情。嗚呼、思い出すだけでも胃がキリキリとする。
さて。
ストーリーが進むにしたがって主人公たるアニーは徐々に変化していく。母親のある計画に気づいたアニーがそれに抵抗しようともがけばもがくほど事態は悪化していく。そしてそれを修復しようと努力する彼女の姿は周囲からは異常にしか見えない。そして家族からの信頼性を失うとともに我々観客にも疑問を抱かせるようになる。いや、そもそも最初に起こる悲劇すら、そのきっかけはアニーではなかったか?と。彼女は母親の亡霊に悩まされる主人公という立場から「信頼できない語り手」へと変容していく。ここで起きている現象は一体誰の仕業なのだ?アニーの夫スティーブがそうだったように我々もアニーをそういう目で見ざるをえない。何か仕掛けがあるんだろう、とテーブルの下をのぞいてみるが何もない。そうやって我々は不安と混乱と恐怖を植え付けられてしまう。終盤はただただその展開に慄く事しか出来ない。
そして訪れるラスト。あの不思議な神々しさは何だ。この作品で唯一の祝福的場面がアレだという事がまた一段と恐ろしい。
最後にメモ。
- トニ・コレット、素晴らしかったですね。終始生気のない眼差し。そういえばシックス・センスでも母親との因縁的なのなかったっけ?
- ガブリエル・バーンも久しぶりに見たなぁ。スティーブ役、一番可哀想な気がする。
- チャーリー役の子、あの禍々しさをまとったオーラ何なんですかね。この作品に出た事で彼女の将来が心配になるくらいだ。マジで。
- ピーター役のアレックス・ウルフ、良かったねぇ!「ジュマンジ/ウェルカム・トゥ・ジャングル」の子だったのね。いやこれから期待したい。