妄想徒然ダイアリー

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絶望してしまわない為に。【映画】『アナザーラウンド』雑感。

毎日のように鳥わさと瓶ビールで一日を締めくくる、という生活を続けていたわたしも、すっかりと呑まない生活が続いている。それはそれで、という感じではあるけれどふと休みの日などは回転寿司でエンガワとつぶ貝をつまみながら日本酒をキメたくなるのもまた事実。

『アナザーラウンド』

マッツが舞う!『アナザーラウンド』予告編 - YouTube

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酔っ払い映画に新たな名作誕生と言いたい。勿論、酔いどれが生み出す人間関係のズレも描かれていて能天気なばかりではない。ビターな物語ではあるけれど、だからといって説教じみた展開にはならない。辛口であるからこそ人生、というかね。

とにかくマッツ・ミケルセンが素晴らしい。序盤、友人達との会食の場で酒を飲み始めた時の表情で一気に引き込まれていく。妻とのすれ違いや教師として子供達にも保護者にも信頼されていない状況。それを言葉少なくその身体から滲み出すように表現する彼の姿を見ているだけで、何故か泣けてくるから不思議だ。

ハードでキツい描写もある。特にマーティンと妻とのヒリヒリとした関係を巡る描写は心を抉る。序盤のすれ違いは(アルコールというドーピングによって一瞬)改善されて2人の関係は好転する。しかし上昇した分やがて訪れるであろう断絶は、その落差分キツい。決定的な食卓のシーンもそうだけれど、2人が対峙し、妻がマーティンの目の前で白ワインを飲むくだりは、『ブルー・バレンタイン』級の破壊力があった。

血中アルコール濃度を上げる事で職場や家庭の問題をなんとかやりくりしようとするマーティン達の行動は、時に成功し時に哀しい結末を生む。しかし、アルコールはそこで良くも悪くも描かれてはいない。楽しい酒もキツい酒も苦い酒もただそこにある。飲むか飲まないかは自分次第だし、飲んでも飲まなくても人生は進んでいく。アルコールを断つことが正しい行いとは限らないし、それで人間が生まれ変わっていく訳でもない。

それでも生きることへの賛歌のようなものがこの作品にはあるし、最後には不思議な明るさでこの作品は締めくくられる。そこに赦しや救いがあるのかは実は判らない。しかし、これから明るい未来を迎えようとする若者達の輝きとマーティン達の人生のアレやコレやは交差して、どさくさ紛れのように祝祭の空間が生まれた。

それが正しいかどうかは別だ。もしかしたら、マーティンは同じことを繰り返してしまうかもしれない。でも、それも人生という事なのだろう。

わたし達は、只々マッツ・ミケルセンの踊りを観ているだけで幸せな気持ちになっていれば良いのかもしれない。