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猫背気味で刀を構える、その瞳。【映画】『サマーフィルムにのって』雑感。

新しい学校のリーダーズのLIVEに行くと、青春というキーワードに良い意味で打ちのめされる。勿論、わたしは青春からは遠く離れた場所に立っているし、所謂「青春らしい」体験はしてこなかったけれど、それでも「エンドレス青春」というアジテーションに右手を掲げながら、強く心動かされてしまうのです。

8月6日(金)公開『サマーフィルムにのって』本予告 - YouTube

『サマーフィルムにのって』

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いや、良かったですね。良かったとしかいえねーじゃん(仮)ですよ。

評判に違わず、青春映画でありSF映画であり映画を巡る物語であり、時代劇であるとともにキラキラした恋愛映画ですらある。

冒頭の少し猫背気味で歩くハダシを捉えたショットですでに成功か約束されていた気がする。そして、それはラストシーンのカタルシスへと繋がる。

ハダシを演じた伊藤万理華さんの事はドラマ『お耳に合いましたら』で知ったけれど、独特の存在感と身体の動きが気になる存在で、この映画でも走るシーンや座頭市の真似をする場面などでその能力が発揮されていたけれど、何よりあのラストシーンのアクションの素晴らしい事。

このラストシーンの為にこの映画が存在するかのようで、青春の決着であるとともに、この作品な映画を巡る物語でもあることを証でもあり、そこには文化的危機に立ち向かう意思がギュウッと凝縮されている。登場人物達(途中チラっとしか出てこない先生とか)が集合しているのも良い。

ハダシ、ビート板、ブルーハワイといった3人組のアンサンブルも良いし、ダディボーイ、小栗、増山、駒田といったキャラクター達にも愛着が湧いて所謂〝またコイツらに会いたい〟的感情が沸きそうになるけれど、でも〝もう2度と会えない〟からこそ一瞬一瞬が尊く眩しく輝くのもまた事実で、まさしく文化祭のようにいつか終わりが来るからこそ、その刹那が光る。

それはすなわち凛太郎と関係性にも繋がり、あらかじめ限定的なひと夏であることが予見されながら、いやだからこそ、それが過去と未来をつなぐ標のように打ち込まれる事で永遠性を獲得するのだ、というようなロマンスを思わず頭に浮かべてしまう。

ラストシーンが映画への愛と青春の刹那と恋愛映画の輝きを放つのは、ある意味奇跡のような化学反応だけれど、わたしがこの作品のすきな要素のひとつには〝キラキラ映画のあり様も肯定する〟という心持ちがある。確かに花鈴達の撮るキラキラ映画はハダシ達の対立構造として存在しているし、わたしもどちらかといえばハダシ達のようにそういったものへ冷たい眼差しを送る側の人間だけれど、それでもそういったラブコメのキラキラもまた必要なものなのだ、という視点もまたそこにはある。例えば波打ち際で白いワンピースを着たブルーハワイへ拍手を送る凛太郎や駒田達の姿は、映画そのものへの愛を感じる場面でもあって、そのキラキラに救われる者もそこにあるのだ、というメッセージを感じたりもする。

これって結構大事な事で、「なんでそんなくだらない映画観るの(曲聴くの/本読むの)」というのは、わたし自身もそうやって他者との差異を認識してきたけれど、それを楽しんでいる人にとっては大きなお世話だし、それぞれがそれぞれなりの楽しみ方を出来ない世の中こそ問題だ。

誰かの物語を楽しむ事すら出来ない未来にならない為に、ハダシ達は向かい合い一瞬一瞬をその時代に刻み込む。その構えた刀は、そこにある青春と映画と伝えたい気持ちを、互いに(過去と未来に)残しておく為に必要なもので、それはモップでも箒でもビニール傘でも構わない。

 

メモ

  • 伊藤万理華さんはどのシーンも良いけれど、特に部室で編集している時のキリッとした表情にはドキリとさせられた。
  • ビート板役の河合優美さんも繊細な表情が良かったし、ブルーハワイ役の祷キララさんのコミカルな存在感もとても印象的だった。
  • 小栗、増山、駒田が次第にトリオ化しているのも微笑ましいし、駒田のさりげない恋愛模様といった遊びも楽しい。
  • 親や教師といった大人が物語に絡んでこない中で、老け役高校生ダディボーイとして支え役に徹していた板橋駿谷さんもキーポイント。最後には〝良い見せ場〟もあるしね。
  • 花鈴とハダシが部室で背中合わせに編集しているシーン良い。花鈴のキラキラ映画への矜持も潔し。
  • 本来、闖入者としての凛太郎の存在は周囲に受け入れられるまでに混乱を描いたりしがちだけど、そういったところをサクッと進めるのも好印象。部室で一気に説明して皆んながそれを受け入れる流れ、それをリアリティというかは別にして、テンポも良い。そして、それは凛太郎が周囲にスムーズに愛されていく様と重なる。