映画『ボイリング・ポイント/沸騰』予告編 - YouTube
『ボイリング・ポイント/沸騰』
レストランという閉じられた空間の中でグランドホテル形式で繰り広げられる人間模様。90分ワンカットという試みが〝出オチ〟で終わる事なく、緊張感もありつつ「崩壊寸前の最悪な夜」を体感出来る仕組みにもなっていて、いや面白かった。
主人公のアンディを始めとして出てくる登場人物達がことごとく粗のあるキャラクターで、それぞれ濃淡はあれど、どこか人生をスムーズに生きていくには何かを欠いている。それはわたし達と同じではあるけれど、では誰かに感情移入出来るかといえばそうでもない。
登場人物たちを追いかけるカメラの視点はわたし達の視点でもあって、まるでこの最悪な職場環境に放り込まれたかのような感覚を抱く。共感性羞恥とはちょっと違うけれど、「この状況ツラいなぁ」というのと「なんか現実世界もこんな感じかも」という感情が入り混じっていた気がする。
あとレビューが権威化している状態というのは、日本でも同じだけれど、料理(やその他文化)をエンタメとして楽しみ消化していく土壌というものに違いがあるように感じられた。具体的に言語化出来ないけれど、評価する/される事に対する理解度や許容度というのが良くも悪くも醸成されているというところだろうか。
アンディのダメっぷりは(元々は腕のあるシェフであるという点を含めて)群を抜いてるとしても、他の面々も相当なもので。遅刻はするは、サボるはで、よくもまあこれで人気レストランとして繁盛するものだと思うくらいだけど、そういうジェイクやロビンといった「いいから、働けよ!!!!」と言いたくなる人間はまだ良い方だ。というよりもそもそもジェイクが真面目に働くほどの賃金を貰っているかどうかも怪しくて、そもそもの仕組みそのものが破綻しているのかもしれない。
スーシェフのカーリーも唯一まともで頼れる存在のように思わせながら、実はタガが外れてしまっている人物だ。確かに獅子奮迅の活躍でアンディの尻拭いをしている彼女だが、ホールチームへの不満を感情ダダ漏れにして支配人ベスへぶつけるあたりには人間としての弱さが表れている。やたらと反抗的なフリーマンも同様で、こんなチームワークで美味しい料理が出来るのが不思議なくらいだ。
※一見まともに見えるエミリーも、同僚の秘密を知ってしまった時のリアクションが尋常じゃ無いくらい素早くて、そういう意味では彼女もメンタル的に結構キている人間のひとりだ。
そうやってグツグツと沸騰していく状況は、決して簡単には好転しない。絡み合った感情移入のもつれは90分間で解くことは出来ない。それでも、小さな変化(大袈裟にいえば希望の光の兆し)はあって、例えばベスが少しずつでも周囲との人間関係を改善していこうとする姿は、滑稽にも見えるが、やはり肯定したい。アンディがどうにか人生をリセットしようとする姿は身に迫るし、個人的にこの締めくくり方はハッピーエンドだと思っている。
しかし、アンディやベスが改心したとしても、おそらく7番テーブルのようなクソ野郎は変わらないままなのかもしれないと思うとなかなかやり切れない。