妄想徒然ダイアリー

映画と音楽とアレやコレやを

ピンポン玉を踏みつける人間を信用できるか。【映画】『さがす』雑感。

『さがす』

映画『さがす』本予告 1月21日(金)全国公開 - YouTube

f:id:mousoudance:20220901110912j:image

冒頭の夜の街に猫が横切るショットをみた瞬間に「嗚呼、これは良い映画だぞ」と思わせる。と、そんな事を言いたくなるくらい素晴らしい作品だった。失踪した父親を探す娘、というプロットから想像される展開は良い意味で裏切られる。全編ピンと張り詰めたテンションが続くが、不思議と疲労感はなく、ラストに訪れるものが、絶望なのか希望の光なのか判らないけれど、そこには不思議な爽快感すらあった。

片山慎三作品は初体験だけど、なるほど人間のダークでヒリヒリした部分を刺激するような肌触りを感じる描写が良い。楓(伊東蒼)が担任教師(松岡依都美)の家へ泊まった時の居心地の悪さ、眠れない楓の顔の側にある〝自分とは違う日常の風景〟に感じる違和感と断絶とそれによって生まれる絶望。妻、公子(成嶋瞳子)の「ある行為」を目撃した時の原田(佐藤二朗)の数秒のフリーズとその後の行動。ムクドリさん(森田望智)の横柄な口調と世界との距離感。そして山内(清水尋也)のクールで悪魔的な眼差し、等。そういったザラザラとしたものは、どこかで自分の人生に直結しているような、過去の記憶にこびりつく黒い澱みを掘り起こされるような錯覚を抱く。

キャストがとにかく素晴らしい。佐藤二朗は言うに及ばず伊東蒼という新たな才能の発見もあった。失踪した父親を探すその姿は健気さを超えて、自分の存在意義が脅かされているかのような焦燥感もあり、同級生花山(石井正太朗)との歪な青春模様も体現しながら、ラストの展開でググッと観るものを惹き寄せるその表情には驚かされた。清水尋也は、まさにハマり役で、そういう意味では意外性はなかったけれど、そのクールな眼差しと独特のオーラは山中という得体の知れなさと(狂った)正義感を持つキャラクターにピッタリだった。

原田の妻役の成嶋さんや担任教師の松岡さんも良かったけれど、ムクドリを演じた森田望智さんが最高でしたね。社会との距離感が判るその独特の口調には妙なリアリティがあったし、そんな中で多目的トイレで見せる慈悲深さを感じるような瞬間には思わず落涙しそうになった。このエモーショナルなひと時は、終盤の展開へと繋がり、それは絶望なのか救済なのか混沌とした感情をわたし達にもたらす。あの時、小さく振られた手!

決して軽いストーリーではないし、腹にズシンとくる重さはあるけれど、飽きさせない展開でこういう映画にありがちな疲労感はない。ラストでわたしをドキドキとさせた楓の〝告白〟には不思議な爽快感すらあった。

原田も楓も山中もムクドリさんも、その人生において救済の徴を探し求めて彷徨い、おそらくはそれぞれがその答え(のようなもの)を見つける事ができたように思う。それがハッピーエンドなのかバッドエンドなのかは判断出来ないし、そもそもそんな事に意味はない。自分の中に赦しと救いの道標が見つけられたなら、それは望ましい事なのだ。きっと。

救済は痛みを伴うことで、ようやく訪れるモノなのかもしれない。それでも楓のこれからの未来が、青く輝く少女漫画のようにキラメクことを願ったりするのです。

いや、傑作でした。