映画『クリード 過去の逆襲』予告編 2023年5月26日(金)公開 - YouTube
成功して野心のなくなった(つまりは〝虎の目を失った〟)チャンプがハングリー精神の塊のようなギラギラとひた敵役の登場によって、再び栄光を掴むために立ち上がる。というのは、ほぼ『ロッキー3』だ。その予想を大きく外れる事のないストーリー展開に不満はない。言ってみれば安心して観ていられて楽しめたけれど、それだけに刺激が少なかったような気もしている。それでも最終的に訪れる贖罪と赦しの瞬間には反射的にグッときてしまうけれど。
と、同時にやはり前2作にあったロッキーサーガ的なエッセンスが薄れてしまっているように感じてしまうのも事実で、クライマックスの試合にも何となく物足りなさを感じてしまう。スタローンの不在は、彼が画面にいないということ以上に作品に与える影響が大きいのかもしれない。
本作でアドニスが囚われている過去(それを闇と言ってもいいけれど)とはデイミアン(デイム)の存在そのもので、そのデイムのキャラクターが結局は典型的な悪役に落とし込まれている点に少し違和感がなくもない。いや敵役になるのは問題ない。確かにアポロやラング、ドラゴといった過去の敵役も憎らしい相手ではあった。しかし、デイムの邪悪さは無邪気な憎らしさとは違っていてそれが結果としてノイズになってしまった。序盤の再会のシーンや「そうであったかもしれない人生」を取り戻そうとする野心にはむしろ共感できる部分もあっただけに、その後の展開はもう少し工夫が欲しかった気もする。デイムのワンスアゲインに正当性があればあるほど、その後の赦しの時間に尊さが増したのかな、と。
あとヴィクターの扱いはもう少し何とかならなかったのか、とかエンディングは「ロッキー3」的なエモーショナルな締めくくりの方が…とか、どうしても「ぼくの作ったロッキー/クリード」を言いたくなるのも長寿人気シリーズの宿命ではある。でもジョナサン・メジャーズの演技はとても良かった(特に序盤から前半にかけて。それだけに彼を巡る様々な問題は残念でもある)し、安定したパッケージを作り上げた(言われているアニメ的表現というのは個人的には感じなかったけれど)マイケル・B・ジョーダンも評価したい。けれどエンドクレジットの後に流れたクリードを巡るよく分からない何かをテーマにした短編アニメは、色々と混乱をもたらしていた。そういう意味でもクリードの物語としてはこの辺りで完結するのも良いのかもしれない、とも。
序盤、デイムとアドニスが夜の街に繰り出していくシークエンス。わたしは何故か2人がラップバトルへ向かうように見えた。そんな筈はないけれど、もしかしたらそんな2人の未来もまたあったのかもしれないと思い始めている。