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たったひとつの正しいやり方。なんて、ない。【映画】『ヒンターラント』雑感。

9月8日(金)公開『ヒンターラント』|予告 - YouTube

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全編ブルーバック撮影と聞いて、余りにも〝ダークファンタジー臭〟のする画面作りだと嫌だなぁ、と思っていたら、そういったケレンは余り前面に出ていなくて、とても良いバランスでCGが使われていたという印象。敗戦国の不安定で混沌とした状況が歪んだ建物などに象徴されていて、そういったところにも嫌味はない。

主人公ペーターが殺人事件の捜査に巻き込まれていく過程に、知らず知らずのうちに引き込まれていく。ミステリー的な仕掛けとペーターの赦しと救済の物語が低音の効いた音楽とともに絡み合っていて、鑑賞後に不思議な余韻が残る。

オーストリア或いはドイツの映画界に詳しくないのでほぼ初見の人ばかりのキャスト人だったけれど、皆魅力的だった。特にペーター役のムラタン•ムスルの無骨だが信頼感を帯びたオーラが印象的だった。そのオーラの源は主にその身体性にあるように思うけれど、そのドッシリ感があるからこそどうしようもない状況に絡め取られていくような弱さが際立つ。もう少し、ペーターの優秀な操作能力やセヴェリンとのバディ感を補強するようなエピソードがあっても良かったのかな、という気もするけれどそれはおそらくは小さな話だろう。

戦争における不条理の前では〝正しい行い〟は空回りしてしまい、「じゃあ、どうすれば良かったんだよ!」というペーターの叫びへの答えをわたしは持っていない。混沌とした戦後で新たに生き直す希望が、どれほどそこにあるのかはわからないけれど、それでも生きていかなくてはならない人間としてのどうしようもなさは、ラストに現れていたのでは、と。ペーターの絶妙な視線と表情筋の動きは、この映画の中でも最大の見所であり、同時にミステリーでもあったような気がしてならないのです。その余韻は今でも残っている。