妄想徒然ダイアリー

映画と音楽とアレやコレやを

地獄にて、わたし天国。【映画】『ザ・クリエイター/創造者』雑感。

映画『ザ・クリエイター/創造者』IMAX予告|AIと人間の未来とは?心を揺さぶる壮大な“愛”の物語|10月20日(金)劇場公開! - YouTube

f:id:mousoudance:20231021222940j:image

作品の良し悪しの評価軸というのは、なかなかに曖昧なもので勿論数値化も出来ないし、説明も難しい。ストーリー展開が斬新で優れているとか扱っているテーマが今日的であるとか或いはキャストの演技が人々の心を動かすパフォーマンスであった等といった要素は確かに判定の基準にはなるけれども、それとて明確に定義があるものでもない。そして、得てして微分しきれない魅力を持つ作品というものはある。

わたしにとってギャレス・エドワーズはそういう魅力を持つ映画作家のひとつである。『GODZILLA』や『ローグ・ワン』といったビッグバジェット作品では、確かに荒削りな部分も目立たない訳ではないけれども、どうしても嫌いになれないというか、むしろ〝好き〟という感情を抱かせる何かがある。ロジカルに説明出来ないけれど、〝肌に合う〟という事なのかもしれない。

今作においても、既視感のあるストーリー構成(まんま『ローグ・ワン』やないかい!というツッコミ待ち)や設定のツメ甘さという指摘は予想できるけれど、それでも抗いきれない魅力がある。個人的にはファースト・コンタクトとなった『モンスターズ/地球外生命体』に近い肌触りを抱いた。ギャレスさん、あんた『地獄の黙示録』好きね。

帝国主義的なものとそれに対抗していくアジアという構図はもちろんベトナム戦争を想起させる。ノマドの攻撃はナパーム弾の爆撃のようだし、圧倒的物量の攻撃にゲリラ的に対抗していく姿、泥臭い地上戦の闘いなど随所にそれが見られる。同時に価値観(それを宗教観と置き換えても良いけれど)の相違が相互理解する隙間もなく武力衝突に収斂されてしまう有様は奇しくも2023年における世界情勢と重なる部分が多く、双方における〝真なる世界〟を大義とした争いに絶望感を抱くことにもなった。

SF的な仕掛けについては、おそらく突き詰めていけば粗もあるはずだけれど、〝もしかしたらこうであっかもしれない世界〟の魅せ方は上手いと思う。ハンス・ジマーハンス・ジマーで相変わらず素晴らしかったし、わたしは4Kレーザー、7.1chという環境で観たけれど序盤流れるレディオヘッドがまるで頭の中で鳴り響いているかのような効果があってそれだけでかなりアガるものがあった。あとまさかのリーダーズの曲が流れるとは!あと日本語の表記がどうこうといつフェーズを我々は超えているはずなので、もうそういうツッコミは余り意味をなさない。

ジョン・デヴィッド・ワシントンは潜入捜査ばかりしているような気がするけれど、やはり佇まいが良い。否応なく巻き込まれていく型主人公がよく似合う。ジェンマ・チェンや謙さんも流石の存在感だったけれど個人的にはアリソン・ジャネイにMVPを与えたい。冷静でテキパキと指示をしていく上官としての側面や部下を懐柔しようとする狡さ(息子の戦死の話はジョシュアに動機を与える嘘のようにも見える)を持つキャラクターを嫌味なく演じていて良かったと思う。

アルフィーが無感情で無口な序盤から次第に会話によるコミュニケーシが成立していく様は、AIとして学習していっているんだなというのがわかりやすく、それだけに彼女の中にある感情というものは一体どういうメカニズム、プログラムなのかという点に興味が湧いてくる。アルフィーに感情を移入させていくジョシュアに対する「あれはただの機械、プログラムなんですよ!」という説得の言葉は、真実ではある。しかし、「であるとしても」その両者に芽生える気持ちのやり取りというものは、「そこにはある」ものであって、それもまたリアルなものだと言わざるを得ないという事なのか。

そして感情のやり取りがあるという事は、そこに崇拝する気持ちや拠り所にする意識が存在する事になる。エンディングの微笑みにあるのは大大円のハッピーエンドとは限らず、そこには残忍さや終わらない闘いの絶望感もまた含まれていたように思うのです。