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猫は息を止められるのか。【映画】『クワイエット・プレイス DAY1』雑感。

New Jeansおじさんを冷ややかに見ていたわたしだが、ミンジさんの歌う『踊り子』にはかなり心を揺さぶられて、今とても危険な状態。〝今。この時しかない疾走感と儚さ〟が凝縮されていて、駆け出しながらスクールバックを投げる場面には思わず声が出そうになる。良い青春映画を観たようなインパクトがあった。

映画『クワイエット・プレイス:DAY 1』海外版本予告 - YouTube

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冒頭ホスピスから始まる一連の流れで作品のモード、目指すものが伝わってくる。前2作にあったような謎のクリーチャーとの攻防似合ったスリルやエミリー・ブラントがショットガンで「もー怒った!メタメタにしてやんよ」的なカタルシスのあるような作品ではなさそうだ。ルピタ・ニョンゴの静かだけど気品を感じる演技が作品全体のトーンを支配していた。「クワイエット・プレイス」という冠はついているけれど、どちらかというと人生の一面を描いたよく出来た小品という印象が強い。

突然現れた得体の知れないクリーチャーに〝いきなり生を奪われる〟という理不尽さは、病に侵され、日々激痛に耐えながら人生の行く末が見えている人生との対比で相対化される。将来か輝いている(はずだった)エリックは、この突然沸き起こった唐突に訪れる死を前にして「ここで死ぬのが怖い」と言う。それは至極当然の気持ちの吐露ではあるのだけれどサミラにとって死は常に傍らにあるもので、その時点でふたりは相容れない。この対比が分かりやすいので、その後の展開が割とスーッと飲みこめるし、この物語の着地点は想像しやすい。確かに、大きな驚きはないけれど、それはこの作品にあっていたように思う。

終盤に(まさに会話する事なく)互いに意思を通じ合わせるところも、さりげなくて良かった。人生に生きてきた事の意味を与えるという意味で、わたしにはこの結末はハッピーエンディングのようにも思えたし、鳴らせ、この音を!というサミラの行動は、彼女なりのショットガンだったのかもしれない。