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そして今日もまたポチる。【映画】『ラストマイル』雑感。

https://youtu.be/o1Yc-GM8GOk?si=BF9Xbw9SJB0OVJHZ:『ラストマイル』予告編

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いかにもな劇伴等、一瞬心配になるところはあったけれど、野木亜紀子作品らしい〝弱者への視点と、それを掬い(救い)上げるような眼差し〟に満ちていて、流石だった。社会問題への目配せも、ともすれば(そのメッセージの正しさとは関係なく)映画としてノイズになりかねないが、そのバランスは絶妙だった。

シェアード・ユニバースという点では、野木ワールドのキャラ大集合!的な派手さは少ない。『アンナチュラル』や『MIU404』の登場人物達は、極々控えめにそこに存在する。でもそれで良いと思う。あくまでもこれはエレナとその周辺で起こる出来事を巡る物語だ。そして、その世界はあらゆる生きにくさを感じる人達で溢れている。そういう人たちへの眼差し。そういった世界観こそがシェアされていると感じた。

満島ひかり岡田将生阿部サダヲ火野正平宇野祥平安藤玉恵ディーン・フジオカも、そしてあの人やあの人も、みな素晴らしかった。満島ひかりさんは、押しとどめた感情が思わず溢れでそうになる表現力が素晴らしかった。過去を語るシーン、白眉でしたね。あと、個人的には安藤玉恵さんと宇野祥平さんの存在感がとても良かった。終盤のあの展開で起こるケミカル。こういうところ、上手いなぁ、と。

主人公であるエレナを含めて、一点の曇りない人間などはいないし、登場人物たちが生きている世界はわたしたちの社会そのものと相似だ。わたしたちは、時に発注者になり、時に受注者にもなる。サービスを提供する一方で、別なサービスを享受している。それが社会というものだし、その中で足掻きながら(或いはプライドや矜持を保ちながら)生き抜いて行かなければならない。そういった世の中への解像度が高く、あらゆる登場人物に感情移入させられる場面がたくさんあった。

わたしはエレナであり、五十嵐であり、八木であり、佐野親子だ。一歩間違えれば、やりがい搾取に近いメンタルで会社に労働量を提供し、一方で委託先には自分が社属する組織の利益を優先した要求をすることもある。凡その仕事というものはそんな構造だ。でもそこに矜持やプライドも、また、ある。だから、厄介だ。

消費者の立場では、スマホ片手にネットショッピングで注文をする。それがわたしたちの生活だ。そうやって、世の中の歯車は回り続ける。その歯車からドロップアウトする勇気はなかなか出ないし、仮にドロップアウトしてもベルトコンベアーは動き続けることを知っている。そして、何があっても世界はそう簡単には外れていった歯車について考えてはくれない。ましてや、贖ってはくれないということも。

だからエレナの行動には、決して「スカッとジャパン」的な痛快なカタルシスは産み出さないが、誠実な者がその誠実さを少しでも失わずに生きていけないか、という小さな希望の光がそこにはある。だからこそそのメッセージは身体の中に染み込んでくる。その寄る辺なさに半ば諦めてしまうような、そんな抜き差しならない世の中で、わたし達はそれでも、どうにかこうにか生き続けるしかない。結局、わたし達は延々とロッカーの鍵を引き継いでいるに過ぎないのかもしれない。でも、それでも、生きていく為には小さな光を見つけない訳にはいかない。

そして、今日も注文した荷物が宅配BOXに届いている。