妄想徒然ダイアリー

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メロイック・サインに頷く。【映画】『ショップリフターズ・オブ・ザ・ワールド』雑感。

わたしもいい歳なので「生きつらさ」のようなものは微塵も感じていないような顔をして毎日生活をしている。日々の仕事を消化し、上司の軽口を苦笑しながらやり過ごし、暮らしている。まあ、それが人生ってやつよ、と嘯くつもりもないけれど。

『ショップリフターズ・オブ・ザ・ワールド』

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宮世琉弥が映画予告ナレーション初挑戦。青春音楽映画『ショップリフターズ・オブ・ザ・ワールド』【2021年12月3日(金)公開】 - YouTube

ザ・スミス関連では『イングランド・イズ・マイン』という作品があって、「まだこの世にスミスが存在しない世界」でもがく青春が上手く描かれていたと思っていたけれど、とくに話題にもならずオフィシャル(というかモリッリー)的にも無関係とされているようだった。結構、いい作品だと思うんですけどね。僕はまだ病んだまま。【映画】『イングランド・イズ・マイン モリッシー、はじまりの物語』雑感。 - 妄想徒然ダイアリー

今作では冒頭からスミス解散で幕開けする。つまりは「この世からスミスが消えてしまった世界」だ。主人公(が誰かはさておき)達は、それを嘆く。それぞれが世界に居場所を見つけられなくて悩んでいる、つまりは青春が描かれている訳だけれども、その辺りの描写はそれほど掘り下げられていない。

奇しくもクレオの「『プリティ・イン・ピンク』のモリー・リングウォルトにはリアリティがない」という台詞がそのまま彼女達にも当てはまるような感想を抱いてしまった。結構、パーティなんか言っててリア充感ありますよ。でもグッとくる場面もいくつかあってパトリックが〝ほんとうの自分〟を発見していく心の動きなどは良かったし、それを感じ取っていくシーラの複雑な心情などは良かったと思う。グレイス・ジョーンズみたいなクラブの門番やロバスミやスージー・スーみたいなパーティピープル

それよりもラジオジャックの場面の方をもっとメインにしても良かったのかな、という気もしないでもない。ディーンの佇まいはとても良かったし、彼がザ・スミスに救いを求める切実さがある。そしてメタルDJとのプチ・ストックホルム症候群的な関係性も(典型ではあるけれど)わかりやすく伝わってくるし、それぞれが最終的に違いを認めていく過程も良かった。ある場面で掲げられるメロイック・サインの美しさよ。

章立てのタイトルや台詞の端々に曲名や歌詞を使っていたり、「ストップ・ミー」のMVの自転車軍団の引用などにはスミス愛を感じるが、要所要所で差し込まれるモリッリーとジョニー・マーのインタビューなどをみるとむしろザ・スミスのドキュメンタリーを観ている感覚の方が強い。ドラマパートの方がオマケになっているというのは言い過ぎだけれど、結局1番グッと来たのは大音量で鳴る「ハウ・スーン・イズ・ナウ」の場面だったりする。

いつかのモリッリーのライブではミート・イズ・マーダーが食肉の残酷さを表現したビデオと共に演られていて、そのライブには親が連れて来たのだろうか小学生の子供もいたのだけれど、その子が帰りに「ねえ、今日焼き肉たべようよー」と言っていたのを聴きながら、〝少年よ、それも正しい道なのだよ〟と思った事がある。そしてわたしも帰りに焼き鳥を食べたのです。