妄想徒然ダイアリー

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もう誰もシューズなんて見つめてないよ。『10/3(火)羊文学 Tour 2023 - if i were an angel -』雑感

例えば崎山蒼志さんの『国』を聴いた時、〝ああ、ここで歌われている国はわたしの居場所ではないんだな〟という気持ちを抱く事について、説明するのは難しい。それは年齢を重ねている事への自虐でも或いは上から目線でのマウントでもなく、この歌は今を(そしてこれからを)生きる者たちへ届けられているのだ、という事実の確認に近いかもしれない。いや、少し違う気もするけれど、とにかく、それは当たり前で素晴らしい事なのだと言うことを言いたい。

或いはリーダーズ、或いはダウ90000という素晴らしい表現者にも同じような感覚がある。もちろんアツイ思いを持ってはいるのどけれど、どこかで「すみません。ちょっとお邪魔しますよ。」というスタンスで触れている。繰り返すけれど、それはとても喜ばしい事と思っている。

ということで羊文学のワンマンに初めて臨んだ。

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Zepp Hanedaはバーが何箇所にも設置されていている事で、フロア内に大きな混乱がない一方で、スタンディングで人が密集していく時のある種の猥雑な空気は醸成されにくく、そこに物足りなさを感じなくもない。そしてマイブラが流れる場内で開演を待つ。

いやー!良かった!最高でした!

相変わらずセトリの記憶は頭からこぼれ落ちていくし、曲名がパッと出てこないものもあったりするけれど、とにかくオープニングから素晴らしい。シンプルなステージ装置ではあるけれど、映像と光の使い方がとても効果的だった。

あいまいで輪郭のはっきりしないものは、およそ不安を掻き立てるものではあるけれど、しかしそこにある〝何か美しいもの〟が現れては消えていく。そんな幕開けも素晴らしいし、〝いまいちばん訴求力のある曲〟をドンと続けてもってくる潔さ、清々しさにも心動かされた。羊文学の初心者のわたしだけれど、既存曲と新曲、或いは定番曲とレア曲がバランスよく配置されている印象を持った。

わたしが初めて羊文学を観たのは、小さな音楽イベントだった。小さなホールのような場所で、わたしは名前に惹かれて覗いてみた。スリーピースのインディーズバンドという印象ではあったけれど、シューゲイザー好きをくすぐるような音楽は記憶に刻まれていた。とても良いバンドとは思ったけれど、大きな会場でライブをやるような姿は想像できていなかった。その時はMCもほとんどなくて、寡黙で内省的なバンドという感じだった。しかし、今日、わたしが観た羊文学はZeppHanedaのキャパに相応しいパフォーマンスを演っていた。ほんわかしたMCも少し意外だったし、フクダさん喋るんだ!という驚きもあった。あの頃の印象(というのもわたしの勝手な偏見ではあるけれど)とはかなり違う。

当たり前だけど音源を聴く時とライブでは全く印象が変わる。特に後半は聞き慣れた曲が続いたけれど、身体に染みてくる感覚がいつもとは違う。アウトロがメチャクチャカッコよかったのはどの曲だったろうか。或いは、マリンスタジアムのような開放された空間で観てみたいも思う瞬間もあった。ドラムのビートとベースの低音とかき鳴らされるギターと塩塚さんの歌声やゆりかさんのコーラスが美しいアンサンブルを構成していて、そういえばバンドのライブも久しぶりだなぁ、と思いつつ身体中で静かな興奮が沸き起こるのを感じていた。

本編の締めくくりもとても良かった。バックの映像とシンクロして、「ああ、そうだね。君が天使だったらね」とツアータイトルを回収するようなカタルシスもあった。わたしはこの時、アンコールなくて、ここでおしまいでも良いような気がしていた。これはこれで綺麗にまとまっていてパッケージとしての正しさがあった。

しかし、アンコールは当然あった。あったし、それがまた良かった。曲名を書いてしまうけれど、「1999」がこんなにもエモーショナルに響いてくるとは自分でも意外だった。オレンジ色のライトに包まれながら泣きそうになったのは、何故か。正直理由はわからない。

アンコールのMCでは来年の横アリも発表された。バンドが大きくなる過程とはこういうものなのだろう、その発表に違和感はなかった。新アルバムについてのMCでフクダさんが言ったように〝原点回帰しながら変化/成長していく〟(大意)という今の羊文学に相応しい展開のように思える。オリジナリティ或いはこれまでの活動で積み重ねられたアイデンティティを維持しながら洗練されていく様を見ているような感覚もあった。

わたしはここしばらくアルコールを絶っている。しかし、良いライブを観た後は旨いお酒を飲みたくなってしまう。帰り道、あちこちから誘惑的な光が目に飛び込んでくる。今夜ひとつだけ困ったことを挙げるなら、それだ。