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this is the day【映画】『侍タイムスリッパー』雑感。

予告編 - YouTube

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これもまた、映画にまつわる作品だった。時代劇というジャンルそして斬られ役という裏方に対する愛とリスペクトを衒いなく描いている。刺激的なセンスを感じるとか衝撃的な展開があるタイプでもないし、ベタなコメディ演出に危うさがない訳ではないけれど、素直に笑う事が出来る。タイムスリップ物にありがちな、事態を飲み込むまでの展開のまどろっこしさがわたしは苦手だけれど、その辺りもテンポよく処理されていてストレスなく楽しめた。

 冒頭で長州と会津との関係性が描かれていることで、終盤の展開の意味が幕末の歴史に詳しくない観客(わたしもその1人だが)にもスッと理解出来る仕組みになっていて、そういった地に足のついた演出も良い。

何より山口馬木也さんを主役に据えた事が大きい。時代劇と殺斬に通じた役者の存在がこの作品の肝でもあって、朴訥さと侍の殺気が同居したキャラクターへのアプローチがとても良かった。銀シャリおにぎりやショートケーキに感動するシーンはギャグパートではあるけれど、同時に幕末に生きた侍としての想いが溢れる場面でもある。中でも会津藩士である(あり続けなければならない)事に対する矜持、その想いが高まっていく展開にはかなり心動かされた。

京都撮影所が協力しただけあって、時代劇シーンの解像度は素晴らしい。スター役者や大部屋俳優或いは殺陣師の存在もいい。そして評判通り、終盤の殺陣シーンは圧巻。冨家規政さんのどっしりとした安定感によってヒリヒリとした緊張感に満ちていて、見応えのある場面だった。こういうシーンがあるだけで作品の説得力がグッと上がる。

そして。安田淳一監督が脚本や照明やその他様々な役割(ポスターデザインまで!)を担っているというのは知っていたが、助監督を演じていた沙倉ゆうのさんが実際にも助監督やその他制作部門にも携わっていた事がわかるエンドクレジットもまた、この作品が自主映画であったことの証のようであった。